『冬へ』
冬へ、また一歩近づいた。
少しずつ、少しずつだが、確実に。
日本の四季から、冬というものが消えてどれくらいの月日が経っただろう。
およそ10年前に起きた人災により、今や子供は雪や冬といったモノすら見たことが無いだろう。
「俺も、見たことが無いんだよなぁ……冬」
諸事情があり、俺も冬を見たことが無かった。
唯一、昔兄さんが俺に持ってきてくれた小さな小さな雪で出来た雪うさぎだけが、俺が知る冬だ。
「見たい、見たいなぁ……兄さんがはしゃいで俺に教えてくれた冬」
いつか、お前の体調が良くなったら一緒に雪遊びしような!!
……そう言ってくれた兄さんの姿は、どこにもない。
10年前の人災により、兄さんは行方不明になってしまった。
そういえば、もしかしたら……。
いや、きっと気のせいに違いない。
俺は頭を振りかぶって、足元に落ちていた『冬の欠片』を大事にしまった。
砕け散った冬……各地に散らばった冬の欠片を集めれば、再び日本に冬が戻る。
そう政治家からニュースで発表されてから、冬の欠片というものは高値でやり取りされるようになった。主に政府が高く買い取ってくれる。
小さな小さな冬の欠片。
きっと本体はもっともっと大きいのだろう。
それでも、一歩は一歩だ。
「いつか。必ず、兄がいってた冬を、俺は見るんだ」
固く誓ったそのときだった。
「ごめん! どいてどいてどいてぇぇえーー!!」
「え……!?」
上から女の子が降ってきた。
ちょっと何を言っているか分からないと思うが、俺も意味が分からない。
これは、突如空から降ってきた美少女と、冬を求める俺の……冬を手に入れる代わりに『何かを失う』物語。
……続きとかは、ない。
おわり
11/18/2025, 1:14:47 AM