『心の迷路』
心の迷路って何だろう。
ぐちゃぐちゃな気持ちだろう。
好きなのに、嫌い。
あの人は笑ってくれて嬉しいのに、もしかしてあの笑みは営業スマイルで裏で私をあざ笑っているんじゃないのか、と疑ってしまったり。
そんな出口の見えない、心の迷路に迷い込んだときは上を向いて生きよう!
太陽から浴びる光が、あなたを前向きな思考にしてくれます(個人差あり)
俯いて歩いていると、太陽の影を見つけてじめじめとする。
上向いて進むので、もっともっともっと!!!
そして気がつくでしょう、太陽の見える方角に。
目印が増えましたね!!
他にも……
お腹が空いて空腹なのは、あなたが生きている証拠!
そのアンハッピーもいずれハッピーになる。
そう思うと、心の迷路も悪いばかりではないのかもしれませんね!!
「なんだ、この安っぽいビラ」
おわり
『ティーカップ』
ティーカップにトイプードルが入っている映像を見たことがあるだろうか。
大変可愛らしいものだ。
SNSで、よくバズる。
では、ティーカップにおっさんが入っている場合はどうなのだろう?
大変汚らしいが、これもSNSでバズるのだろうか。
今宵、大学生となる矢島喜多郎は、目の前に、久しぶりに出した母の遺品のティーカップから、変なおっさんと目が合うという、人生初の奇天烈な邂逅を体験している。
「よぉ、坊っちゃん。どうした、キティがバックなステイにキューリを置かれたみてぇな顔しやがって……まさか、チェリーじゃねぇよな?? ははっ、これは厄介だ。拗らせオタクボーイが一番面倒くせぇんだからよぉ」
「喋った」
「そりゃあ喋るさ、そっちこそ眼球付いてないのかい? オレっちには、立派な歯がついてるのが見えんだろぉ?」
そう言ってソイツは、妖怪ネズミ男みたいな出っ歯を突き出して、キリーンっと輝かせさす。
なんだこれ、イケメンの歯でしか見たことがないぞ、てか現実でもあるんだ、アニメの表現しかないと思ってた。
てか、なんだ。そもそもこの生き物は。
江戸っ子と口の悪いB級アメリカン映画のキャラと、なんかタダのそこらの飲み屋の酔っぱらいみたいな喋り方は。せめてどれかに統一出来ないのかよ。
僕がうずうずと、腹の中で言葉を洗濯機のようにグルグルしていると、アイツは立ち上がって前髪をキザにさっとかきあげ(しかも、また何故かキラキラがでてる、なんだこれ)こう言った。
「じゃ、盟約通り、オレっち今日からココに住むから、お世話よろしくな、オタクチェリーボーイくん」
「はい?」
これは、呆気に取られる僕と、ティーカップに入ったおっさんが一緒に暮らし始める物語。
……続かない。
おわり!
『寂しくて』
寂しいというのは、いったいどんな気持ちだろうか。
考えた事はないだろうか?
寂しいとは、いったいどういう気持ちなのかと、いうことを。
寂しくて、会いたくなっちゃった。
寂しくて、病みそう。
寂しくて、心細い。
冷めてしまったオードブルのような、破裂寸前のポップコーンのような、そんな感情。
……果たして、そんな感情に意味などあるのだろうか。
たいていが、負のようにも思える。
それに、相手が居て寂しいという感情が生まれるというならば、相手が居なくなれば、寂しいという感情すら生まれない筈だ。
寂しいから、あなたを殺した。
とは、あまり聞かない気がする。
何故だろう、
たとえ、合理的だと分かっていても、感情的な部分を重点的にスポットライトを浴びせて注目しているからだろうか??
おわり
………虫歯が痛い。
『透明な羽根』
透明な羽根が落ちていた。
どうして分かったのかは、自分でも分からない。
ただ、呼ばれている気がした。
真夏の炎天下、僕はアスファルトが茹だるような道路でしゃがみ込み、透明な羽根を指で触れる。
つるりとしたガラスの表面が、まるで夏に食べる素麺みたいだ。
ゆっくりと割れないように慎重に手の平で包み込む。
「あつ!!」
僕は思わず手を離した。
冷えピタぐらいの冷たさだった透明な羽根が、いきなりカイロほど温かくなってビックリしたからだ。
透明な羽根は地面に叩きつけられ、砕け散る……と思ったが、ふわりとしゃぼん玉のように、パチリと弾けて消えた。
何だったのだろう。
僕が不思議に思い首を傾げつつも、気を取り直し目的地に行こうと足を一歩踏み出した瞬間。
僕の足は止まった。
「あれ……僕はどこに向かおうとしていたのだろう」
不思議な事に、僕は自分の目的地がわからなくなっていた。
おわり
『冬支度』
「冬支度しようと思う」
「冬支度って、どういう意味か知ってる?」
「知らん」
「…………」
最近の季節の変わりようは、すごかった。
暑い夏が終わって秋が来るのかと思いきや、飛び越えて寒々しい冬が来たのだから。
押入れから冬用の厚みのある布団を取り出し、クローゼットにしまった半袖を長袖に取り替えていく。
薄手のコートを取り出しつつ、マフラーと手袋は今はまだ良いかと横に避けつつも直ぐに取り出せるように前の方へ仕舞った。
「で、冬支度って言ってたけど、君は何をするの?」
隣で腕を組みながら頭を抱えて唸る彼に対して、僕は着なくなった夏服を折りたたみつつ、そう聞いた。
「アレだな……冬といえば……」
「冬といえば?」
カッと、目をかっぴらく彼。
うん、こわい!
「鍋、だな」
「…………な、べ???」
呆気に取られる僕に対して、彼は自分のスペースからモリを取り出す。随分と立派で手入れされているそれは海で使う物のようだ。
「え、まって、待って。な、な、なに? え??」
「ん? ほら、鍋の材料を狩ってこないと、だろ」
僕が慌てて止めると、彼は不思議そうに首を傾げてみせる。
――なんでお前が自分で狩ってんだよ。
「あー、うん。まだ、鍋はちょっと、はやいと思う」
「そうか?」
「…………うん」
「そうか、わかった。食べたくなったら言ってくれ、狩ってくる」
いや、買って来てくれ。頼むから。
何も言わず無言で苦笑いする僕。
どうやら、うちの同居人の冬支度は胃袋に限定され、かつ自分で食材を狩ってくるのが基本スタイルらしい。
「ぼく、いつのまに、バーバリアンとシェアハウスしたんだろう……?」
「ん? なにか言ったか?」
「いえ、べつに、ナンデモナイヨ、ハハハ」
乾いた僕の笑い声だけが、晩秋の空に溶けていった。
おわり