『透明な羽根』
透明な羽根が落ちていた。
どうして分かったのかは、自分でも分からない。
ただ、呼ばれている気がした。
真夏の炎天下、僕はアスファルトが茹だるような道路でしゃがみ込み、透明な羽根を指で触れる。
つるりとしたガラスの表面が、まるで夏に食べる素麺みたいだ。
ゆっくりと割れないように慎重に手の平で包み込む。
「あつ!!」
僕は思わず手を離した。
冷えピタぐらいの冷たさだった透明な羽根が、いきなりカイロほど温かくなってビックリしたからだ。
透明な羽根は地面に叩きつけられ、砕け散る……と思ったが、ふわりとしゃぼん玉のように、パチリと弾けて消えた。
何だったのだろう。
僕が不思議に思い首を傾げつつも、気を取り直し目的地に行こうと足を一歩踏み出した瞬間。
僕の足は止まった。
「あれ……僕はどこに向かおうとしていたのだろう」
不思議な事に、僕は自分の目的地がわからなくなっていた。
おわり
11/9/2025, 4:18:37 AM