『冬支度』
「冬支度しようと思う」
「冬支度って、どういう意味か知ってる?」
「知らん」
「…………」
最近の季節の変わりようは、すごかった。
暑い夏が終わって秋が来るのかと思いきや、飛び越えて寒々しい冬が来たのだから。
押入れから冬用の厚みのある布団を取り出し、クローゼットにしまった半袖を長袖に取り替えていく。
薄手のコートを取り出しつつ、マフラーと手袋は今はまだ良いかと横に避けつつも直ぐに取り出せるように前の方へ仕舞った。
「で、冬支度って言ってたけど、君は何をするの?」
隣で腕を組みながら頭を抱えて唸る彼に対して、僕は着なくなった夏服を折りたたみつつ、そう聞いた。
「アレだな……冬といえば……」
「冬といえば?」
カッと、目をかっぴらく彼。
うん、こわい!
「鍋、だな」
「…………な、べ???」
呆気に取られる僕に対して、彼は自分のスペースからモリを取り出す。随分と立派で手入れされているそれは海で使う物のようだ。
「え、まって、待って。な、な、なに? え??」
「ん? ほら、鍋の材料を狩ってこないと、だろ」
僕が慌てて止めると、彼は不思議そうに首を傾げてみせる。
――なんでお前が自分で狩ってんだよ。
「あー、うん。まだ、鍋はちょっと、はやいと思う」
「そうか?」
「…………うん」
「そうか、わかった。食べたくなったら言ってくれ、狩ってくる」
いや、買って来てくれ。頼むから。
何も言わず無言で苦笑いする僕。
どうやら、うちの同居人の冬支度は胃袋に限定され、かつ自分で食材を狩ってくるのが基本スタイルらしい。
「ぼく、いつのまに、バーバリアンとシェアハウスしたんだろう……?」
「ん? なにか言ったか?」
「いえ、べつに、ナンデモナイヨ、ハハハ」
乾いた僕の笑い声だけが、晩秋の空に溶けていった。
おわり
11/7/2025, 2:02:02 AM