白井墓守

Open App

『ティーカップ』

ティーカップにトイプードルが入っている映像を見たことがあるだろうか。
大変可愛らしいものだ。
SNSで、よくバズる。

では、ティーカップにおっさんが入っている場合はどうなのだろう?
大変汚らしいが、これもSNSでバズるのだろうか。

今宵、大学生となる矢島喜多郎は、目の前に、久しぶりに出した母の遺品のティーカップから、変なおっさんと目が合うという、人生初の奇天烈な邂逅を体験している。

「よぉ、坊っちゃん。どうした、キティがバックなステイにキューリを置かれたみてぇな顔しやがって……まさか、チェリーじゃねぇよな?? ははっ、これは厄介だ。拗らせオタクボーイが一番面倒くせぇんだからよぉ」

「喋った」
「そりゃあ喋るさ、そっちこそ眼球付いてないのかい? オレっちには、立派な歯がついてるのが見えんだろぉ?」

そう言ってソイツは、妖怪ネズミ男みたいな出っ歯を突き出して、キリーンっと輝かせさす。
なんだこれ、イケメンの歯でしか見たことがないぞ、てか現実でもあるんだ、アニメの表現しかないと思ってた。

てか、なんだ。そもそもこの生き物は。
江戸っ子と口の悪いB級アメリカン映画のキャラと、なんかタダのそこらの飲み屋の酔っぱらいみたいな喋り方は。せめてどれかに統一出来ないのかよ。

僕がうずうずと、腹の中で言葉を洗濯機のようにグルグルしていると、アイツは立ち上がって前髪をキザにさっとかきあげ(しかも、また何故かキラキラがでてる、なんだこれ)こう言った。

「じゃ、盟約通り、オレっち今日からココに住むから、お世話よろしくな、オタクチェリーボーイくん」

「はい?」

これは、呆気に取られる僕と、ティーカップに入ったおっさんが一緒に暮らし始める物語。


……続かない。

おわり!


11/12/2025, 8:09:26 AM