『光と影』
光があるから、影がある。
そんな話を聞くが、もしも光と影。二つが1:1ではなく、1+1であったら、どうなるのだろうか。
「まったく、イカれた科学者の考えることは分からないね!」
光族という者がある。
正真正銘、光る、という特質を生まれ持った種族だ。
影族という者がある。
正真正銘、影を作る、という特質を生まれ持った種族だ。
基本的に、光族は警察で、影族は犯罪者として扱われる事が多い。
光族の能力は、明るく照らすだけでなく、闇に葬りさられた真実を照らすのにも、重宝された。
しかし、影族の能力は、日陰を作るという細やかなものから、真実を影に、闇に葬るといったら犯罪に適したものが多かったからだ。
だがしかし、影族が息絶えなかったのは、光族の影響が大きい。
なぜだかは分からないが、闇族の数が減ると光族の出生もまた減っていくのだ。昔の名残りだろうか。
少し前には、人類の完全なる平等な平和が約束されたというのに、それは影族にだけは適応されていないらしい。
影族だけは、生まれてきてはいけない能力を持っているにも関わらず、死ぬと死ぬで光族や他に迷惑がかかると、奴隷のような管理をされているからだ。
だから、こそ。
影族は脱走し、光族はそれを捕まえることを命令される。
自殺する前に、四肢を引きちぎっても良いから生きて捉えろ、と。
「まったく、イヤな仕事だ」
そう言って光族に生まれた一般的な若者が、今日も脱走した影族を追跡する。
……もしも、違った事といえば。
「?」
「え、かわいい」
その光族の青年が、脱走した影族の女の子に一目惚れした事ぐらいだろうか。
これは、影族の女の子に一目惚れした光族の青年が、世界を敵に回して好きな女の子に生きていて欲しい話であり、その女の子が世界をひっくり返すような重要なポジションであると判明してもなお、愛を貫くという純愛なストーリーである。
………………続かない。
おわり
『そして、』
そして、君は灰になった。
死にたくないと言ったのは、誰だっただろうか――君だ。
人間が怖いと怯えていたのは、誰だっただろうか――君だ。
初めて優しくして貰ったと嬉しそうだったのは、誰だっただろうか――君だ。
あの人に何か恩返しがしたいと笑っていたのは、誰だっただろうか――君だ。
吸血鬼だとバレて顔面をボコボコに殴られていたのは、誰だっただろうか――君だ。
涙でぐちゃぐちゃな顔面なのに無理矢理に笑顔を作って大丈夫と強がっていたのは、誰だっただろうか――君だ。
あの人が困っているとき真剣に悩んで心を痛めて胸に固く閉じた拳を握りしめていたのは、誰だっただろうか――君だ。
止める僕に対して本当に辛そうに顔を歪めながらゴメンと謝り日の光の方へあの人を助けるべく走り出したのは、誰だっただろうか――君か?
吸血鬼は、日の光を浴びれば灰になってしまう。
そして、吸血鬼だった者の記憶は、生き残った者から失われてしまうのだ。
だから、こそ。
僕は、僕は……。
――そして、君は灰になり……僕は君を忘れた。
おかしなメモを見つけた。書いた覚えがない。
随分と昔に書かれたのだろう、古びたメモだ。
謎に大切にされていたようで、厳重に宝箱にしまわれていたようだが……僕は、こんなものを書いた覚えはない。
何処かから紛れこんでしまったのだろうか?
そう思い、僕はその紙を“呆気なく”ゴミ箱に捨てた。
「あれ、おかしいな……なんで泣いているんだろう、僕」
おわり
『おもてなし』
おもてなしってのは、各家庭において異なるものだとは思う。
……だからといって、これは無いんじゃないだろうか?
「え? みんな追い求めてるよ??」
「そりゃあな」
「……嬉しくなかった?」
「流石に自分の意思で決めさせて欲しかったよ」
「そっか……不老不死のヴァンパイアになれるって、みんながみんな嬉しい訳じゃないんだね」
ヴァンパイア家系のおもてなし、特殊すぎるだろ……。
今日から、ヴァンパイアによるおもてなしによってヴァンパイアにされた俺の生活が始まる……。
目標は人間に戻ること、かな。
おわり
『消えない焔』
「ずっと燃え続ける消えない焔があるんだ、見に行かないか?」
そう言われたのは、つい昨日のことだ。
そのときの僕はむしゃくしゃしており、咄嗟に頷いたのを覚えている。
そして目の前。
――消えない焔。
ではなく、カラカラに干からびいた赤茶色の絵の具のような物が、蝋燭を立てる台のような物にこびりついている。
……それだけだった。
「ねぇ、焔は?」
「まあ、みてろ」
問いかける僕にニヤリと笑う友人。
仕掛けを知らない僕はつまらないとばかりに、よそ見しながら唇を尖らせる。
そのときだった。
ずぷり、僕の腹に大きく衝撃が走る。
「え?」
僕の口から出たのはそれだけ。
動かない身体を前に、どうにか眼球だけ動かす。
すると、友人がニヤニヤと嫌らしく口元を歪め、ランランと幽鬼のように強く目を光らせていた。
「どう……して?」
「悪いな。消えない焔のために、必要だったのさ」
そうして彼は僕の血を蝋燭立ての上に、ぼたぼたと乱雑に零す。
こんな事態の中、どこか勿体ないと、自分の血なのだから丁寧に扱って欲しいと思ってしまう。
数秒後、蝋燭立てに火が宿る。
消えない焔だ、とは直ぐにわかった。
言葉にはしがたい、ひと目見ただけで分かる異質な焔だったからだ。
そして、友人の姿が焔に飲まれ、少しずつ人の形を辞めていく。
ああ、僕は人間が悪魔になる儀式に連れてこられ、そして生贄にされたんだなとわかった。
でも、不思議なことに、僕の心は最期まで穏やかだった。
それは、生きていても良いことのない日々をもう送らなくてもよいという嬉しさだったり、自分は目の前の化け物のようなモノに成らず人間として死ねる安堵だったりしたのだろう。
……こうして僕の命の蝋燭の火は消えたが、
友人は僕の命を対価に……化け物としてこの世を尽きることない寿命と共に死ねない呪いを、消えない焔を背負うことになったのだ。
いつか彼はこのときの事を深く後悔し、人間に戻ろうと四苦八苦するのだが、それは僕が知らない話だ。
おわり
『終わらない問い』
「終わらない問いってなんだと思う?」
「なんだそれ、人生か?」
学校で貰った作文のテーマ、それを目の前の吸血鬼に告げたら怪訝そうな顔をされた。
「人生って、なんで?」
「お前ら人間は、アレが欲しいコレが欲しいと思って行動するも、直ぐに手に入った物を当たり前として次はアレが欲しいコレが欲しいと強欲が凄まじい」
「………」
「終わらない問いってのは、疑問が尽きないんだろう? きっとソイツは知っても知っても疑問が尽きなくて、いつか太陽を目指して羽が溶けて死んだイカロスのように碌な死に方をしないな……まあ、人間らしいじゃねぇか」
「何かを欲するって悪いことなのかな」
「……悪くはねぇさ。ただ、程度がある。たとえば、自分の欲しいものを手に入れるために、他人に迷惑をかけたりとか……」
「それは――僕の両親の事?」
息絶え亡き骸となった両親だったものから、ドクドクと真っ赤に流れ出ていた血は、既に乾ききっている。
まるで、屑籠に捨てられたキャベツの葉切れだ。あとで生ゴミに出さないと。
「お前さぁ、殺した俺が言うのもなんだが……ちと冷血すぎね? 両親死んでんだぜ?」
「え、そう? だって永遠の命が欲しいと吸血鬼を強引に誘拐してきたのは両親の方でしょ? それは他人に迷惑をかけることをした方が悪いよ」
「……仲、悪かったのか?」
「いや? 昨日、一緒にオーケストラのコンサートに行って帰りに高級レストランで食事したばかりだよ」
ますます眉間に皺を寄せる吸血鬼。
「俺は生きてて初めて見たよ、お前さんみたいな“両親の死体を横目に作文のテーマについてちょっと聞いてもいい?”問いかけてきたやつ」
「えー? だって、両親の死はもう覆らないし、かと言って明日までの課題の期限が伸びる訳じゃないのだから、当たり前じゃない?」
「あー、お前こっち向きだなぁ、な。吸血鬼にならね?」
「嫌だよ。僕は人間として生きて人間と死ぬよ」
「こうなんだよぁ。いっつもそうだ。要らねぇゴミばかりが寄って来て生きてて欲しいヤツは拒みやがる……ったく、吸血鬼の力なんて呪いでしかねぇなぁ……」
そうボヤきながら、吸血鬼は家を出ていった。
……生ゴミの日まで数日ある。あとでキッチンにある生ゴミ用消臭剤のスプレーを撒いて、小分けにして二重の袋で密閉して入る分は冷凍庫や冷蔵庫に入れておこう。
一気にたくさん出すと、ご近所さんの迷惑になっちゃうもんね。
おわり