『消えない焔』
「ずっと燃え続ける消えない焔があるんだ、見に行かないか?」
そう言われたのは、つい昨日のことだ。
そのときの僕はむしゃくしゃしており、咄嗟に頷いたのを覚えている。
そして目の前。
――消えない焔。
ではなく、カラカラに干からびいた赤茶色の絵の具のような物が、蝋燭を立てる台のような物にこびりついている。
……それだけだった。
「ねぇ、焔は?」
「まあ、みてろ」
問いかける僕にニヤリと笑う友人。
仕掛けを知らない僕はつまらないとばかりに、よそ見しながら唇を尖らせる。
そのときだった。
ずぷり、僕の腹に大きく衝撃が走る。
「え?」
僕の口から出たのはそれだけ。
動かない身体を前に、どうにか眼球だけ動かす。
すると、友人がニヤニヤと嫌らしく口元を歪め、ランランと幽鬼のように強く目を光らせていた。
「どう……して?」
「悪いな。消えない焔のために、必要だったのさ」
そうして彼は僕の血を蝋燭立ての上に、ぼたぼたと乱雑に零す。
こんな事態の中、どこか勿体ないと、自分の血なのだから丁寧に扱って欲しいと思ってしまう。
数秒後、蝋燭立てに火が宿る。
消えない焔だ、とは直ぐにわかった。
言葉にはしがたい、ひと目見ただけで分かる異質な焔だったからだ。
そして、友人の姿が焔に飲まれ、少しずつ人の形を辞めていく。
ああ、僕は人間が悪魔になる儀式に連れてこられ、そして生贄にされたんだなとわかった。
でも、不思議なことに、僕の心は最期まで穏やかだった。
それは、生きていても良いことのない日々をもう送らなくてもよいという嬉しさだったり、自分は目の前の化け物のようなモノに成らず人間として死ねる安堵だったりしたのだろう。
……こうして僕の命の蝋燭の火は消えたが、
友人は僕の命を対価に……化け物としてこの世を尽きることない寿命と共に死ねない呪いを、消えない焔を背負うことになったのだ。
いつか彼はこのときの事を深く後悔し、人間に戻ろうと四苦八苦するのだが、それは僕が知らない話だ。
おわり
10/27/2025, 11:56:03 PM