『そして、』
そして、君は灰になった。
死にたくないと言ったのは、誰だっただろうか――君だ。
人間が怖いと怯えていたのは、誰だっただろうか――君だ。
初めて優しくして貰ったと嬉しそうだったのは、誰だっただろうか――君だ。
あの人に何か恩返しがしたいと笑っていたのは、誰だっただろうか――君だ。
吸血鬼だとバレて顔面をボコボコに殴られていたのは、誰だっただろうか――君だ。
涙でぐちゃぐちゃな顔面なのに無理矢理に笑顔を作って大丈夫と強がっていたのは、誰だっただろうか――君だ。
あの人が困っているとき真剣に悩んで心を痛めて胸に固く閉じた拳を握りしめていたのは、誰だっただろうか――君だ。
止める僕に対して本当に辛そうに顔を歪めながらゴメンと謝り日の光の方へあの人を助けるべく走り出したのは、誰だっただろうか――君か?
吸血鬼は、日の光を浴びれば灰になってしまう。
そして、吸血鬼だった者の記憶は、生き残った者から失われてしまうのだ。
だから、こそ。
僕は、僕は……。
――そして、君は灰になり……僕は君を忘れた。
おかしなメモを見つけた。書いた覚えがない。
随分と昔に書かれたのだろう、古びたメモだ。
謎に大切にされていたようで、厳重に宝箱にしまわれていたようだが……僕は、こんなものを書いた覚えはない。
何処かから紛れこんでしまったのだろうか?
そう思い、僕はその紙を“呆気なく”ゴミ箱に捨てた。
「あれ、おかしいな……なんで泣いているんだろう、僕」
おわり
10/30/2025, 12:00:49 PM