白井墓守

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『終わらない問い』

「終わらない問いってなんだと思う?」
「なんだそれ、人生か?」

学校で貰った作文のテーマ、それを目の前の吸血鬼に告げたら怪訝そうな顔をされた。

「人生って、なんで?」
「お前ら人間は、アレが欲しいコレが欲しいと思って行動するも、直ぐに手に入った物を当たり前として次はアレが欲しいコレが欲しいと強欲が凄まじい」
「………」
「終わらない問いってのは、疑問が尽きないんだろう? きっとソイツは知っても知っても疑問が尽きなくて、いつか太陽を目指して羽が溶けて死んだイカロスのように碌な死に方をしないな……まあ、人間らしいじゃねぇか」
「何かを欲するって悪いことなのかな」
「……悪くはねぇさ。ただ、程度がある。たとえば、自分の欲しいものを手に入れるために、他人に迷惑をかけたりとか……」

「それは――僕の両親の事?」

息絶え亡き骸となった両親だったものから、ドクドクと真っ赤に流れ出ていた血は、既に乾ききっている。
まるで、屑籠に捨てられたキャベツの葉切れだ。あとで生ゴミに出さないと。

「お前さぁ、殺した俺が言うのもなんだが……ちと冷血すぎね? 両親死んでんだぜ?」
「え、そう? だって永遠の命が欲しいと吸血鬼を強引に誘拐してきたのは両親の方でしょ? それは他人に迷惑をかけることをした方が悪いよ」

「……仲、悪かったのか?」
「いや? 昨日、一緒にオーケストラのコンサートに行って帰りに高級レストランで食事したばかりだよ」

ますます眉間に皺を寄せる吸血鬼。

「俺は生きてて初めて見たよ、お前さんみたいな“両親の死体を横目に作文のテーマについてちょっと聞いてもいい?”問いかけてきたやつ」
「えー? だって、両親の死はもう覆らないし、かと言って明日までの課題の期限が伸びる訳じゃないのだから、当たり前じゃない?」

「あー、お前こっち向きだなぁ、な。吸血鬼にならね?」
「嫌だよ。僕は人間として生きて人間と死ぬよ」

「こうなんだよぁ。いっつもそうだ。要らねぇゴミばかりが寄って来て生きてて欲しいヤツは拒みやがる……ったく、吸血鬼の力なんて呪いでしかねぇなぁ……」

そうボヤきながら、吸血鬼は家を出ていった。
……生ゴミの日まで数日ある。あとでキッチンにある生ゴミ用消臭剤のスプレーを撒いて、小分けにして二重の袋で密閉して入る分は冷凍庫や冷蔵庫に入れておこう。
一気にたくさん出すと、ご近所さんの迷惑になっちゃうもんね。


おわり

10/26/2025, 11:24:55 PM