『静寂の中心で』
――彼は静寂の中心で何を思ったのだろうか。
秋、というのは、どこか物悲しい。
青々とした葉っぱが、色を失い光を失い、カサカサになってハラリと落ちていく。
全体的に緑から茶に変わり、枯れていく世界は、まるで世界の終わりを連想させてしまう。
だから、だろうか。
彼がたった一人で、森の中に立っていた。
酷く静かなその場所は、虫の鳴き声すらなく、まるで世界という一本の木が本当に枯れ落ちてしまったかのような孤独だった。
思わず手を伸ばしかけ、ふと気づいて手を引いた。
……かける言葉が、見つからなかったからだ。
去年の秋、彼はここで最愛である妹を喪った。
どこにでもある事故だった、どうしようもない事だった。
結局、親友である自分は何も言えず、ただただずっとその場で彼は見続けていた。
おわり
『燃える葉』
ゆらゆらと、炎が笑っている。
辺りには暗闇が立ち込め、ざわざわと森の木々が音を立てて自分を嘲笑していた。
手に持っていたのは湿気たマッチ一箱と、ナイフ一本だけ。
身の着は、追手から逃げる最中に森の木々に擦り、浮浪者のようなボロボロ具合だ。
まさか、叔父だけでなく、父の頃から仕えていた家臣たちも裏切るとは……。
もう、何も信じられない。
辺りをぼんやりと照らす焚き火すら、鬱陶しいと膝を抱え混んで顔を埋めた。
いつまでそうして居ただろうか。
がさり、と音がする。
思わずビクリと体を跳ねさせて、そちらを見る。
追手、か?
だが、そこに居たのは華奢で細身の少女だった。
「お、お前……なんだ?」
ボサボサの髪の毛に、ずいぶん汚れた服。
そんな見た目を恥じる様子もなく、快活に少女は口を開いた。
「おまえこそなんだ! ここは、あたちのじんちだぞっっ!」
思わず目を見開く。
そして気づいて、少女の髪の下に隠された美しい瞳に。
真っ赤なルビーの宝石のような瞳は、映った炎の揺らめきが反射して、それはたいそう美しい芸術品だった。
ぱちり、と。焚き火から木の枝が燃える音がする。
同時に、しなやかな風が吹いたのか、火の粉が舞った。
一枚の燃える葉が風にゆらりと乗せられて旅立っていく。
ああ、自分もその旅に連れて行って欲しい。
ごくりと、息をのむと、自分は目の前の少女に向けて口を開いた。
「私は……」
これが、のちに英雄と呼ばれる少女と、英雄の相棒と呼ばれた自分とこ出会いだった。
おわり
『moonlight』
月光が降り注ぐ中、たった一人、僕は立っていた。
静かな闇の夜空が僕を見守る。
僕は逃げてきた。
色んな事から逃げて逃げて逃げて、ようやく立ち止まった場所で僕は気がついた。
この世界は、不条理で構成されているのだと。
――夜空に浮かぶ三日月が、ニタリと笑っていた。
おわり
『今日だけ許して』
ごめん、何にも思いつかなった。
現在時刻、締め切り五分前。
『誰か』
誰か、
誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か……僕を見つけてくれ。
売れないミュージシャンとは、使い古された雑巾のようなものだ。
一時期はチヤホヤされて得た人気も、カラカラに干上がって腫れ物を扱うように、隅に置き去りにされる。
アレだけ『一生ファンで居ます!』と言ってくれてた無数のファンも達の姿も、俺には努力なんて無くてもファンが吐いて捨てる程やってくるほどの才能がある……なんて自信は、既に影も形もなくなっていた。
残ったのは、カラカラに乾いて干上がった汚い雑巾みたいなプライドだけだ。
ゴミのようなそれを捨て切れずに、心を入れ替えられない惨めさとは、そりゃあ周囲から嘲笑されて終わりだろうよ。
突き刺さるスタッフの目に耐えかねて外の空気を吸いに外へ出る。
やけに青々とした雲一つない空が、当てつけのように思えて虫唾が走る。
癖である、昔作ったライブ記念グッズのピアスが付いた耳を弄って、どうにか気持ちを宥めていると、恐る恐るといった感じで声がかかった。
「あ、あの……」
「…………なに?」
僕が鬱々とした気持ちを押し殺して、どうにかぶっきらぼうに言葉を絞り出すと、そこには見たことのない若々しい地味な女性の姿があった。
「そのピアス、あのアーティストのヤツですよね。そのアーティストさん、好きなのかなって」
「…………なんで、そんなこと、聞くの。アンタに関係ないでしょ」
「あ、あの! 私、そのアーティストさんのファンで!……でも、私友達が居ないから、アーティストさんの事話す友達が欲しくて……その、あなたがアーティストさんの事好きなら、友達になってほしいなって思って……」
言っている内に恥ずかしくなったのか徐々に俯く彼女と正反対に、僕の顔あがり、気分がふつふつと沸騰する湯のように熱くなっていくのを感じた。
「見つけた」
「…………え?」
俺の『誰か』は、ここに居た。
おわり