白井墓守

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『燃える葉』

ゆらゆらと、炎が笑っている。

辺りには暗闇が立ち込め、ざわざわと森の木々が音を立てて自分を嘲笑していた。

手に持っていたのは湿気たマッチ一箱と、ナイフ一本だけ。
身の着は、追手から逃げる最中に森の木々に擦り、浮浪者のようなボロボロ具合だ。

まさか、叔父だけでなく、父の頃から仕えていた家臣たちも裏切るとは……。

もう、何も信じられない。

辺りをぼんやりと照らす焚き火すら、鬱陶しいと膝を抱え混んで顔を埋めた。


いつまでそうして居ただろうか。
がさり、と音がする。

思わずビクリと体を跳ねさせて、そちらを見る。
追手、か?

だが、そこに居たのは華奢で細身の少女だった。

「お、お前……なんだ?」

ボサボサの髪の毛に、ずいぶん汚れた服。
そんな見た目を恥じる様子もなく、快活に少女は口を開いた。

「おまえこそなんだ! ここは、あたちのじんちだぞっっ!」

思わず目を見開く。
そして気づいて、少女の髪の下に隠された美しい瞳に。
真っ赤なルビーの宝石のような瞳は、映った炎の揺らめきが反射して、それはたいそう美しい芸術品だった。

ぱちり、と。焚き火から木の枝が燃える音がする。
同時に、しなやかな風が吹いたのか、火の粉が舞った。
一枚の燃える葉が風にゆらりと乗せられて旅立っていく。

ああ、自分もその旅に連れて行って欲しい。


ごくりと、息をのむと、自分は目の前の少女に向けて口を開いた。

「私は……」


これが、のちに英雄と呼ばれる少女と、英雄の相棒と呼ばれた自分とこ出会いだった。

おわり

10/6/2025, 8:29:15 PM