『誰か』
誰か、
誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か……僕を見つけてくれ。
売れないミュージシャンとは、使い古された雑巾のようなものだ。
一時期はチヤホヤされて得た人気も、カラカラに干上がって腫れ物を扱うように、隅に置き去りにされる。
アレだけ『一生ファンで居ます!』と言ってくれてた無数のファンも達の姿も、俺には努力なんて無くてもファンが吐いて捨てる程やってくるほどの才能がある……なんて自信は、既に影も形もなくなっていた。
残ったのは、カラカラに乾いて干上がった汚い雑巾みたいなプライドだけだ。
ゴミのようなそれを捨て切れずに、心を入れ替えられない惨めさとは、そりゃあ周囲から嘲笑されて終わりだろうよ。
突き刺さるスタッフの目に耐えかねて外の空気を吸いに外へ出る。
やけに青々とした雲一つない空が、当てつけのように思えて虫唾が走る。
癖である、昔作ったライブ記念グッズのピアスが付いた耳を弄って、どうにか気持ちを宥めていると、恐る恐るといった感じで声がかかった。
「あ、あの……」
「…………なに?」
僕が鬱々とした気持ちを押し殺して、どうにかぶっきらぼうに言葉を絞り出すと、そこには見たことのない若々しい地味な女性の姿があった。
「そのピアス、あのアーティストのヤツですよね。そのアーティストさん、好きなのかなって」
「…………なんで、そんなこと、聞くの。アンタに関係ないでしょ」
「あ、あの! 私、そのアーティストさんのファンで!……でも、私友達が居ないから、アーティストさんの事話す友達が欲しくて……その、あなたがアーティストさんの事好きなら、友達になってほしいなって思って……」
言っている内に恥ずかしくなったのか徐々に俯く彼女と正反対に、僕の顔あがり、気分がふつふつと沸騰する湯のように熱くなっていくのを感じた。
「見つけた」
「…………え?」
俺の『誰か』は、ここに居た。
おわり
10/3/2025, 11:57:08 PM