遠雷
夏の夕暮れ。
灼けるような暑さが、
少しだけ、緩む時刻。
お前は、手を伸ばせば、
届く距離にいるのに、
お前の心の在処は、
何故か遠くて、
その微笑みさえも、
作り物なのだろう。
暗い灰色の雲が、
空を覆いはじめていた。
湿り気を含む風と共に、
遠くの方から、
低く鈍い、雷の音がした。
お前は、その音に、
空へと目を向けた。
遠雷の音でさえ、
お前を動かすのに。
きっと、
俺の想いは、届かない。
どんな言葉を紡ごうとも。
遠雷は続く。
その音は、次第に、
大きくなる。
ポツリと一粒、
雫が落ちた。
Midnight Blue
静かな静かな、蒼い夜。
君の部屋を尋ねる。
闇に揺蕩う蒼を、
窓越しにそっと眺める、
君の後ろ姿が、
余りに儚げだったから、
私は君を抱き締めた。
君は何も言わず、
身動ぎもせず、
ただ、私の腕の中で、
そっと瞳を閉じた。
Midnight Blue。
闇に溶ける蒼が、
君を、そして私を、
静かに侵食していく。
作り物の恋で構わない。
哀しい蒼に染まった、
君の虚ろな心を、
少しでも誤魔化せるなら。
お互いの息遣いで、
罅割れた心と心を、
埋め合わせようと、藻掻く。
それが偽りだと知りながら。
夜の蒼の中で、
君の温もりを、
必死に手繰り寄せる。
君は此処に居る筈なのに、
心は此処にはなくて。
君が私の腕の中に居る、
そんな、蒼い夜だけは、
私を愛しているフリをして、
偽物の笑顔を見せて。
もうすぐ、
黒くて蒼い夜が明ける。
君と私の絆の結び目も、
夜明けと共に解けていく。
君と飛び立つ
君は、傷だらけだった。
…心も、身体も。
それでも、君の瞳は、
一点の曇りも無かった。
そんな君を、救いたかった。
差し出した私の手を、
君はそっと握った。
その温もりを、
愛しいと思った。
君に優しさや安らぎを、
知って欲しいと願う私に、
君はそっと寄り添い、
小さく微笑んだ。
だが。
この残酷な世の中で、
人として生きるには、
君は余りにも、
純粋で、透明過ぎた。
最早、此の世には、
君が君で居られる、
場所はないのかも知れない。
それでも私は、
君の心を護りたいと、
君の笑顔を護りたいと、
君の温もりを護りたいと、
思ってしまうんだ。
だから、私は、
君と飛び立つ。
何も知らない他人は、
現実からの逃避だと言い、
私達を非難するだろう。
だが、それでも構わない。
誰も理解してくれなくとも、
君が微笑んでくれるなら、
私は幸せなんだ。
さあ。
一緒に行こう。
君が傷付く事のない、
此処ではない、
透明な場所へ。
きっと忘れない