霜月 朔(創作)

Open App
8/11/2025, 7:06:37 AM

やさしさなんて



私は冷たい社会から、
傷付けられ、弾き出され
街の片隅の影の中で、
傷だらけの身体を隠して、
生きていました。

でも、貴方は、
こんな私に、
救いの手を差し伸べてくれました。

私には、いつもやさしくて。
傷だらけの私を、
醜い世の中から、
やさしく護ってくれました。

貴方のやさしさは、
とても温かくて。
居心地が良くて。
私は生まれて初めて、
幸せを感じました。

ですが。
気が付けば、私は、
貴方にとって、
特別な存在になりたいと、
願うように、なっていました。

貴方に恋い焦がれた、
私にとって、
博愛だけの、
やさしさなんて、
却って残酷なだけ。

だって、
私が欲しかったのは、
貴方の心に生まれる、
剥き出しの欲望、
なのですから。

だから、私は、
貴方の胸に、
銀色に輝く刃を、
突き立てました。

貴方から、
止め処なく流れだす、
生命の赤。
私の手も貴方の身体も、
朱に染まります。

貴方は、震える手で、
私をそっと抱き締め、
やさしく微笑んでくれました。
そう。
貴方は最期まで、
私に、やさしさをくれたのです。

崩れ落ちた貴方。
私は血に塗れた手で、
自らの胸に、刃を突き立て、
貴方の隣に斃れます。

私は…。
私が欲しかったのは…。
…貴方だったのに。

8/10/2025, 7:02:33 AM

風を感じて

8/9/2025, 3:07:51 AM

夢じゃない



世の中は、残酷で、
優しい人間を、
容赦無く傷付け、
様々な物を奪い取る。

身体の傷跡は、
消える事はなく、
心は血を流し続けて、
乾ききってしまった。

夢ならば良いのに、と、
目を瞑り、耳を塞ぐ。
布団を頭から被り、
朝を待つ。

早起きな朝日が、
容赦無く照り付け、
世の中を、そしてオレを、
目覚めさせる。

夜明けの街は、
何時もよりずっと静かで、
人の醜さが薄れ、
悲しい程、綺麗に見える。

本当に恐ろしいのは、
夢じゃない。
余りに残酷過ぎる、
…現実。

もうすぐ、
夢じゃない、現実が、
汚れきった社会が、
目を覚ます時間。

8/8/2025, 5:27:57 AM

心の羅針盤



あの頃の私は、
頑固で、弱くて。
お前の優しさを、受け取れず。
自分の非を、認められず。
お前の言葉を無視して、
私はお前の元を去った。

心の羅針盤の針は、
ずっとお前を示していたのに、
私は気付かない振りをして、
目を閉じ、耳を塞ぎ、
心を閉ざしていたんだ。

月も登らぬ新月の夜。
後悔の波に耐えられず、
そっと溜息を吐き、
一人、空を眺める。

空の小さな煌めきに励まされ、
心の羅針盤と、
静かに向き合う。

羅針盤の針は、
昔と相変わらず、
お前の方向を指していた。

ずっと、分かっていた。
もう一度、
お前の隣に立ちたいと、
想い続けていた事。

心の羅針盤を、
壊してしまえれば。
こんなに苦しまずに、
済むのかも、知れない。

だが、私は、
心の羅針盤に従うことも、
心の羅針盤を壊すことも、
出来ずにいるんだ。

8/7/2025, 5:25:59 AM

またね



貴方は突然、
生命を奪われた。

残酷な世間は、
善良な人間から、
様々な物を奪う。

俺達の身体には、
消えない傷跡が、
幾つも残り、
俺達の心には、
治らない傷が、
血を流し続けていた。

それでも。
傷だらけの俺に、
貴方は笑い掛けてくれた。

だけど。
余りに醜い世の中は、
貴方から生命までも、
奪い取ったんだ。

貴方が言った、
『またね』の言葉。
よくある、何気ない、
いつもの挨拶だったのに。

叶わなかった、約束。
二度と戻らない日常。
『またね』
『また明日』

Next