霜月 朔(創作)

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やさしさなんて



私は冷たい社会から、
傷付けられ、弾き出され
街の片隅の影の中で、
傷だらけの身体を隠して、
生きていました。

でも、貴方は、
こんな私に、
救いの手を差し伸べてくれました。

私には、いつもやさしくて。
傷だらけの私を、
醜い世の中から、
やさしく護ってくれました。

貴方のやさしさは、
とても温かくて。
居心地が良くて。
私は生まれて初めて、
幸せを感じました。

ですが。
気が付けば、私は、
貴方にとって、
特別な存在になりたいと、
願うように、なっていました。

貴方に恋い焦がれた、
私にとって、
博愛だけの、
やさしさなんて、
却って残酷なだけ。

だって、
私が欲しかったのは、
貴方の心に生まれる、
剥き出しの欲望、
なのですから。

だから、私は、
貴方の胸に、
銀色に輝く刃を、
突き立てました。

貴方から、
止め処なく流れだす、
生命の赤。
私の手も貴方の身体も、
朱に染まります。

貴方は、震える手で、
私をそっと抱き締め、
やさしく微笑んでくれました。
そう。
貴方は最期まで、
私に、やさしさをくれたのです。

崩れ落ちた貴方。
私は血に塗れた手で、
自らの胸に、刃を突き立て、
貴方の隣に斃れます。

私は…。
私が欲しかったのは…。
…貴方だったのに。

8/11/2025, 7:06:37 AM