波にさらわれた手紙
未だ、紫を纏う空。
夜の明け切らない浜辺を、
一人歩く。
日が昇れば、
人々の笑い声が響く、
この砂浜も、海も、
今は、波の音が主役だ。
小鳥たちも寝ぼけ眼の、
こんな時刻。
きっと、君は、
未だ夢の中の住人だろう。
誰も居ない海に、
俺はいつも君に隠してる想いを、
そっと投げ込む。
だって。
どんなに君に憧れていても、
恋い焦がれていても、
君にとって俺は、
親友でしかないから。
砂浜に指で書く、
君への想い。
ずっと言えない、
愛してる、の一言。
涙で滲む俺の告白を、
波がそっと消し去っていく。
波にさらわれた手紙は、
君には永遠に届かない。
明るさが増す空に、
俺は小さな溜息を吐く。
今日もきっと、
君と親友でいられる。
遠い水平線に目を向ける。
頬を撫でる潮風が、
いつもより少しだけ、
優しい気がした。
8月、君に会いたい
悲しい程青い空に、
眩しい程白い雲。
無遠慮に照りつける太陽。
…夏。8月。
俺は今年も繰り返す。
空に向かっての、
ハッピーバースデー。
8月生まれの君は、
夏の陽射しみたいに明るくて、
皆の真ん中で輝いてた。
ずっとずっと。
一緒に生きていくんだと、
思ってた。
なのに…。
人の醜さが、
君の生命を容赦無く奪った。
僅かな金と引き換えに。
こんな穢れきった社会に、
独り遺されて。
生きていても、
意味なんか…ない。
俺はただ。
毎年、照り付ける太陽の下。
君の誕生日を祝う、
それだけの為に生きている。
そして、今年も、また…。
8月、君に会いたい。
眩しくて
太陽の陽射しが、
余りに眩しくて、
ボクは部屋に逃げ込む。
明るい陽射しは、
ボクの闇を、傷を、
白日の下に晒すから。
ボクは、太陽から逃げるように、
薄暗い部屋の隅で、
真っ白い腕で、膝を抱えてる。
無遠慮な太陽の眠る、夜。
ボクは部屋から抜け出し、
天を仰ぐ。
空に輝くのは、
優しく輝く月と、
健気に微笑む数多の星。
月も星も、眩しくて。
でも、何処か優しくて。
不意に涙が溢れる。
こんな夜に思い出すのは、
アイツのこと。
アイツは、
いつも、正しくて、真面目だから、
堂々と眩しくて。
不出来なボクに、
厳しく接してくる。
でも。
そんなボクの、
精一杯の努力を見守る目は、
ホントは優しくて。
どんなに焦がれても、
眩しくて、
手は伸ばせない。
アイツの瞳。
だから、ボクは、
出来の悪い後輩の仮面を被って、
明日もこの気持ちを、
必死に隠すんだ。
熱い鼓動
深い闇に独り浮かぶ、
蒼くて細い月が、
余りに、悲しげだから。
私は君を抱き寄せた。
君に優しく触れる。
君の胸を打つ、熱い鼓動。
私をそっと見つめる、
涙が揺れる瞳が、
嬉しくて。哀しくて。
濡れた口唇から溢れる吐息は、
甘い湿度を帯びているのに、
君の心の中には、
見せかけの花畑の下に、
冷たい氷河が横たわっている。
君の温もりは、
確かに私の腕の中にあるのに。
君の心は、
きっと、此処には無くて。
嘘で、いい。
下手な演技で構わない。
君に触れている、今だけは、
私を愛している振りをして。
君は、戻らない恋人を、
待ち続けていて。
私は、別れた恋人を、
愛し続けていて。
私と君は、
欠けた心を埋め合わせるだけの、
偽りの恋人なんだから。
君の熱い鼓動に触れるたび、
胸が締め付けられる。
…君を好きになれたら。
…私を好きになってくれたら。
私達は、少しだけ、
変われるのかも知れないのに。
タイミング
『ごめんなさい』
が、言えなくて。
お前の顔を見ると、
口から出るのは、
嫌味や悪態ばっかり。
ボクが悪いって事は、
分かってるのに。
お前が相手だと、
どうしても素直になれなくて。
夜、ベッドの中で、
頭まで布団を被って、
独り呟くのは、
心に溜まり続ける、
『ごめんなさい』。
お前を怒らせて。
哀しい顔させて。
イライラさせて。
それでも。ボクを、
嫌わないでいてくれるお前に、
心の何処かで甘えてる。
謝れないのは、
間が悪いからと、
タイミングの所為にして、
ボクは、ボクの心からも、
逃げてるんだ。
認めたくないんだ。
ホントは…
ずっとお前に憧れてたなんて。
心の中で揺蕩う、
『ごめんなさい』と、
『大好き』が、
ボクの口から飛び出す、
タイミングを伺ってる。
だから、ボクは、
それを隠すように、
明日も歯を食い縛るんだ。