霜月 朔(創作)

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熱い鼓動

深い闇に独り浮かぶ、
蒼くて細い月が、
余りに、悲しげだから。
私は君を抱き寄せた。

君に優しく触れる。
君の胸を打つ、熱い鼓動。
私をそっと見つめる、
涙が揺れる瞳が、
嬉しくて。哀しくて。

濡れた口唇から溢れる吐息は、
甘い湿度を帯びているのに、
君の心の中には、
見せかけの花畑の下に、
冷たい氷河が横たわっている。

君の温もりは、
確かに私の腕の中にあるのに。
君の心は、
きっと、此処には無くて。

嘘で、いい。
下手な演技で構わない。
君に触れている、今だけは、
私を愛している振りをして。

君は、戻らない恋人を、
待ち続けていて。
私は、別れた恋人を、
愛し続けていて。

私と君は、
欠けた心を埋め合わせるだけの、
偽りの恋人なんだから。
君の熱い鼓動に触れるたび、
胸が締め付けられる。

…君を好きになれたら。
…私を好きになってくれたら。
私達は、少しだけ、
変われるのかも知れないのに。

7/31/2025, 8:40:15 AM