霜月 朔(創作)

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6/23/2025, 8:43:23 AM

どこにも行かないで



どこにも行かないで。
私の元に留まっていて。
そして、もう一度、
私に微笑み掛けて下さい。

暗い闇の中。
私の祈りの声だけが、
虚しく響きます。

人の悪意と差別の刃に、
傷付けられ、殺された、
あの日からずっと、
貴方の魂は、
あの世とこの世の間に揺蕩い、
貴方の身体は、
闇の中、人知れず、
静かに眠っています。

そんな貴方を、
私はずっと見守ってきました。
誰にも気付かれないように、
陽も射さない、地下の窖に隠れ、
貴方の目覚めを、
待ち続けてきました。

忙しない世の中が、
目紛しく移り変わっても、
私達の時間は、
何一つ変わること無く、
暗闇の中に留まっています。

遠い昔、貴方が私を、
社会の悪意の嵐から、
守ってくれたように、
残酷な時の流れから、
私が貴方を守ります。
だから……。

どこにも行かないで。
私の元に留まっていて。
そして、もう一度、
私に微笑み掛けて下さい。

私は、貴方の帰りを、
永遠に、待っています。

6/22/2025, 7:08:18 AM

君の背中を追って



君の背中を追って、
必死に藻掻いてきた。
だけど、
君の背中には届かなかった。

ずっとずっと、
憧れだった、君。
君の隣に並びたくて、
必死に君を追い掛けた。

君の背中を追って、
がむしゃらに頑張ってきた。
だけど、
君の背中は、遠くなるばかり。

君は、誰よりも輝いてて。
部屋の隅が似合う俺とは、
住む世界が違うんだ。
君に届かない言い訳を、
何度も自分にいい聞かせる。

君の微笑みは、
俺の憧れだった。
でも、どんなに手を伸ばしても、
届かない。掴めない。
それが、切なくて苦しくて。

君の背中を追って、
走り続けてきた足が、
……止まる。

前を行く君の背中が、
よく見えないのは、
君と俺との距離が、
離れ過ぎたからなのかな?
それとも、
俺の目に浮かぶ、
涙の所為なのかな?

光ある未来に向けて、
歩き続ける君の背中を、
見えない俺の未来に探して、
視線だけは、どうしても、
君の背中を追ってしまうんだ。


6/21/2025, 7:02:43 AM

好き、嫌い、



好き、嫌い、
そんな言葉は、
まだ解らなかったですが、
貴方が私の救いでした。

私は社会から弾き出された、
存在しない者。
誰にも必要とされず、
人が見ない振りをする、
街の醜い闇の中で、
身を潜め、息を殺し、
藻掻くように生きてきて。

そんな私に、手を差し伸べ、
光ある世界へ、
導いてくれた貴方。
そんな貴方は、気が付けば、
私の全てになっていたのです。

好き、嫌い、
好き、嫌い、
私に千切られた花弁が、
地面に舞って行きました。

地を彩る花びらの赤色が、
貴方を奪えと、
私の心を駆り立てます。
花占いなんて、
私には必要なかったのです。

私は。
貴方の全てを奪います。
私達を苦しめる物の無い世界で、
貴方と私は一つとなり、
永遠となる為に。

貴方の胸には、
真っ赤な花が咲き、 
貴方は力無く崩れ落ちます。
私は、貴方の最期の吐息を、
口唇で受け止めます。

そして、真っ赤な花に埋もれた、
貴方の隣に寄り添い、
私の胸にも、
真紅の花を咲かせます。
私と貴方の赤は、混ざり合い、
大地を朱く染めます。

好き、嫌い、
そんな言葉では、
語れない程に、
貴方が欲しかったのです。

これで、
貴方と私は永遠に、
二人きり。

6/20/2025, 8:33:28 AM

雨の香り、涙の跡

6/19/2025, 6:30:45 AM





絡まってしまった糸。
綺麗に巻いていた筈なのに、
なのに、気が付けば、
複雑に絡まりあってた。

そう。この絡み合う糸は、
まるで貴方と私の様に、
解こうとすれば、
かえって、絡み合って、
解けなくて。

貴方を傷付ける心算なんか、
無かった。
謝れば、逆に怒らせ、
沈黙を貫けば、
貴方は一人離れていく。

絡み合う糸を、
元に戻したくて。
私は、結び目に爪を食い込ませ、
解そうと、力を掛ける。

突然。
ぷつり、と、
糸が切れる音がした。

切れてしまうくらいなら、
絡まったままの方が、
良かった。
切れてしまったら、
もう二度と、
綺麗に繫がることは、
ないんだから。

そう。
貴方と私は、
離れ離れになる運命。
そう言われたみたいで、
胸が、鋭く痛む。

引き合う糸。
絡まり合う糸。
切れてしまった糸。
解れた不均一な断面。
それが、私の未練みたいで、
情けなくなる。

もう。
私と貴方が紡ぐ物語の糸は、
終わりなんだ、と、
受け入れられたら、
楽なのに、ね。

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