霜月 朔(創作)

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どこにも行かないで



どこにも行かないで。
私の元に留まっていて。
そして、もう一度、
私に微笑み掛けて下さい。

暗い闇の中。
私の祈りの声だけが、
虚しく響きます。

人の悪意と差別の刃に、
傷付けられ、殺された、
あの日からずっと、
貴方の魂は、
あの世とこの世の間に揺蕩い、
貴方の身体は、
闇の中、人知れず、
静かに眠っています。

そんな貴方を、
私はずっと見守ってきました。
誰にも気付かれないように、
陽も射さない、地下の窖に隠れ、
貴方の目覚めを、
待ち続けてきました。

忙しない世の中が、
目紛しく移り変わっても、
私達の時間は、
何一つ変わること無く、
暗闇の中に留まっています。

遠い昔、貴方が私を、
社会の悪意の嵐から、
守ってくれたように、
残酷な時の流れから、
私が貴方を守ります。
だから……。

どこにも行かないで。
私の元に留まっていて。
そして、もう一度、
私に微笑み掛けて下さい。

私は、貴方の帰りを、
永遠に、待っています。

6/23/2025, 8:43:23 AM