霜月 朔(創作)

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2/19/2025, 7:59:54 AM

手紙の行方




何度も手紙を書く。
『ごめんね』
『話を聞いて』
『逃げないで』

言葉にすれば、
壊れてしまいそうな願いを、
便箋にそっと綴り、
震える手で封をする。

静かな夜。
私はその手紙を、
焔に焚べる。

揺らめき、瞬く炎が、
私の心を包み、
刹那の輝きとともに、
やがて灰となる。

そう。
君には決して届かない、
私の想い。

それでも。今夜もまた、
行方を知りながら、
私は手紙を書き続ける。

――『君をまだ愛してる』

2/17/2025, 2:54:55 PM


輝き


夜の底に沈むように、
私の想いは、
緩やかに壊れていく。

触れた指先の温もりが、
まだこの肌に、
焼き付いているのに、
君はもう…居ない。

君の瞳に映っていた私の影は、
もう、何処にも無くて。
今は、目の前で微笑む、
愛しい彼だけを映しているんだ。

それでも私は、独り。
君の面影を探してた。
闇の中で見つけた、
微かな、輝き。
それが、最早手の届かない、
名残だと知りながら。

君は、私を愛したことが、
あったのかな?
それとも。
ただ寂しさを埋めるだけの、
夜の戯れだったの?

答えを聞くこともなく。
私の想いは、ただ。
記憶の狭間に溶けていく。

でも、それでいいんだ。
君が幸福であるのなら。
私はただ、消え去るだけ。
今はもう…遠い記憶となった、
あの夜の輝きとなって――




―――



時間よ止まれ



お前は少し照れた顔で、
優しく微笑んでいた。

お前が居て、
俺が居る。
ただ、それだけ。

それなのに——
この瞬間が、
何よりも愛おしく、
何よりも幸せだった。

風がそっと髪を撫で、
遠くで鳥がさえずる。
世界はゆっくりと、
流れているのに、
この時間だけは、
永遠のように感じた。

束の間の休息。
誰にも邪魔されない、
穏やかなひととき。

時間よ、止まれ。
この温もりを、
この景色を、
心に焼き付けるために。

何度願っても、
時は無情に過ぎていく。

それでも——
お前と過ごす、
この一瞬が、
俺の世界の、
唯一の希望なんだ。

2/16/2025, 8:58:45 AM

君の声がする




俺は眠る。
闇と光が混ざり合う、
混沌とした夢の世界で。

希望のない現実よりも、
この曖昧な暗闇のほうが、
まだマシだと思った。

目を覚ましたくない。
だって現実は、
夢よりも遥かに醜悪で、
残酷だから。

だから、ずっと眠っていよう。
世界の終わりまで。

俺は眠る。
心の奥まで、
闇が染み込んでいく。
だけど、それすらも、
最早、心地良かった。

汚泥に沈むように、
悪夢の深海に、
沈んでいく。

——その時。
僅かな煌めきに、
君の面影を見た。

君の声がする。

現し世に残してきた、
俺の唯一の、心残り。
誰よりも大切な人。

俺は夢の深淵に沈みながら、
懐かしい声に向かって、
手を伸ばした。

だけど——
その手は、
何も掴めなかった。

2/14/2025, 10:53:37 AM


ありがとう




月明かりさえ届かぬ、
新月の夜。
闇の静寂の中で、
君はただ、
静かに微笑んでいた。

「もう、苦しまなくて、
いいのですよ」
まるで歌うような、
柔らかな君の声が、
私を包み込む。

華奢な指先に握られたのは、
闇に揺らめく銀の刃。
夜に溶けきれぬ、
冷たく光る、刹那の断片。

――これで。
漸く、終わらせることが出来る。
過去に囚われた心も、
後悔に苛まれる日々も、
絶望に沈む未来も。

「君を置いて逝くことを、
どうか赦して欲しい」
震える声で告げる私に、
君は優しく微笑んで言った。
「私もすぐに、貴方の元へ…」

――ありがとう。
私は瞳を閉じる。

――愛しています。
銀色の刃が閃き、
闇に赤が滲む。

……。
全てを終わらせてくれて。
私を救ってくれて。
――ありがとう。



〜〜〜〜


そっと伝えたい



冷え切った夜の隙間に、
君の名をそっと呟く。
誰にも届かない声ならば、
せめて影にだけ囁こう。

笑顔の裏に隠した傷、
気付かれたくなくて。
でも、見つけて欲しくて、
矛盾が胸を蝕んでいくんだ。

月明かりが滲む夜、
私は独り立ち尽くす。
もう二度と、
君に触れることも、
触れられることもなく。

この痛みを言葉にすれば、
君が遠くなる気がして、
きつく口を閉ざした。

それでも。
いつか君が、気付いてくれるなら、
何も望まない。
何も奪わない。
ただ、君の心に、
小さな棘を残したいんだ。

そっと伝えたい。
今でも、君を――。

2/13/2025, 8:27:08 AM


未来の記憶



俺は闇の中に、
一つの光を見た。
それは遠く、儚く、
…酷く、淡い。

只、胸に疼く痛みだけが、
鮮やかに蘇り、
その光を覚えていた。
まるで過去から未来へと続く、
細い糸のように。

名前も知らない…お前。
声も知らない…お前。
それでも心は知っている。
こんなにも切なく、
涙さえ滲むほどに、
お前を求めてしまうのは、
何故だろう。

俺は闇の中で、
何度も何度も手を伸ばす。
だが、指先は虚空を掴むだけ。
冷たい闇が、俺を嘲笑う。

それでも。俺は諦めない。
どんなに遠くても、
俺は未来にお前を探す。

俺とお前は、
隣に立ち、笑い合い、
そして…消える。

その儚い一瞬を、
俺は知っている。
まだ訪れていない筈の、
未来の記憶。


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