霜月 朔(創作)

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君の声がする




俺は眠る。
闇と光が混ざり合う、
混沌とした夢の世界で。

希望のない現実よりも、
この曖昧な暗闇のほうが、
まだマシだと思った。

目を覚ましたくない。
だって現実は、
夢よりも遥かに醜悪で、
残酷だから。

だから、ずっと眠っていよう。
世界の終わりまで。

俺は眠る。
心の奥まで、
闇が染み込んでいく。
だけど、それすらも、
最早、心地良かった。

汚泥に沈むように、
悪夢の深海に、
沈んでいく。

——その時。
僅かな煌めきに、
君の面影を見た。

君の声がする。

現し世に残してきた、
俺の唯一の、心残り。
誰よりも大切な人。

俺は夢の深淵に沈みながら、
懐かしい声に向かって、
手を伸ばした。

だけど——
その手は、
何も掴めなかった。

2/16/2025, 8:58:45 AM