霜月 朔(創作)

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1/16/2025, 7:24:07 AM

あなたのもとへ



貴方が去ったあの日から、
幾度も冬は訪れて、
氷の粒を降り積もらせる。

貴方への想いは時と共に、
消えゆくものだと、
信じていたのに。

季節は巡り、
記憶は薄れゆく筈なのに。
貴方の面影だけが、
まるで氷の欠片のように、
冷たく綺麗に輝いてる。

今でも私は、
思い出の中で、
優しく微笑む貴方に、
心を奪われてるんだ。

貴方が、新しい恋に出会えば、
貴方を忘れられるのかな?
でも きっと、
この未練がましい心には、
貴方の幸せすら、
素直に喜べないほどに、
貴方が、深く刻まれてる。

堪えきれない想いが、
私の口唇から溢れ、
風花となって舞い上がる。

私はただ独り。
鉛色の雲に覆われた、
寂寥の空を見上げて、
白い煌めきに祈るんだ。

この想いを込めた言の葉が、
舞い散る粉雪となって、
そっと、貴方の元へ、
届きますように。

1/15/2025, 5:05:01 AM

そっと



見えますか?
世の中は、
肉食動物の牙よりも残酷で、
人の心は、
淀んだ沼の汚泥より醜くて。

こんな醜悪な世界に、
身も心も翻弄され続けて、
心を削られた貴方。
私の愛しいひと。

一時の安らぎを迎える夜。
疲れ切って眠る貴方に、
そっと、語り掛けます。
お疲れ様でした、と。

そっと、そっと。
私は両手で、
貴方の両頬を包み込みます。
貴方の瞼は閉じられ、
微かな呼吸が聞こえます。

そっと、そっと。
私の両手は、
貴方の頬から首へと、
滑り落ちていきます。

静かに眠る貴方に、
私は微笑みかけます。
…怖くはありませんよ。
直ぐに私も逝きますから。

これから行く先が、
どんな所だろうと、
醜いこの世に縛られるよりは、
遥かに幸せな筈ですから。

私は手に力を込めます。
貴方の魂も、心も、
全ての愛も。
最期の一息さえ、
奪い取り、抱き締めるように。

そっと。そっと。
それは、
終わりを告げる鐘の音。
そして、
始まりを知らせる足音。

1/14/2025, 9:45:10 AM

まだ見ぬ景色



俺は独り、佇んでいた。
身体の至る所に傷を負い、
朱に染まった四肢が、
痛みに震えている。

自由に動かす事さえ、
ままならない身体で、
静かに周囲を見渡す。
そこは、悪意の坩堝。
闇が蔓延る世界だった。

地に伏す人々の瞳は、
虚無を映す硝子玉。
最早、救いを求める事さえなく、
只、絶望に埋もれていた。

それでも、俺は歩き出す。
砕け散った心を抱えて、
傷付いた身体を引き摺りながら、
まだ見ぬ光を求めて。

絶望に濡れた瞳に、
在る筈もない景色が、
柔らかな光となって広がった。
大切な仲間に囲まれ、
安らかに笑う俺がいた。

それは、まだ見ぬ景色。
永遠に辿り着くことのない、
憧れの風景。

遥か遠く、
一筋の光の元に見える、
まだ見ぬ景色は、
天使からの最期の贈り物か?
悪魔からの招待状か?

俺は…足を止めた。
これ以上、歩く必要はない。
…そう、覚った。

1/13/2025, 9:23:54 AM

あの夢のつづきを



私は、貴方と夢を見ます。
それは、余りに背徳的で。
けれど、酷く甘美な夢。

夢の中では。
私には、貴方以外の恋人はなく、
貴方には、私以外の想い人はない。
そんな…二人だけの世界。

けれど、外の現実では、
私も、貴方も、
立場と責任という鎖に縛られ、
触れ合う事は、赦されません。

それでも、私は、
何処か空虚で満たされぬ、
心の空洞を埋めるように、
貴方の温もりを、
求めずにはいられないのです。

現実が幻であり、
この夢こそが真実なのだと、
そう信じながら、
貴方の熱に蕩けて、
魂の輪郭が溶け合い、
魂さえ、一つになるのです。

夜という闇が、
優しく包む夢の中で、
甘い毒に酔い痴れます。
それは。
蠱惑的な罠に囚われた、
二人だけの秘密。

私はただ、
あの夢のつづきを、見たいのです。
今夜も、明日の夜も。
例えこの罪が、白日の元に晒され、
互いの破滅を迎える日が、
訪れるとしても――。

1/12/2025, 9:37:37 AM

あたたかいね



寒い冬の昼下がり。
柔らかな陽だまりに、
小さな温もりを見つけた。

独りきりの日々は、
視線を落としたままで、
何処か急ぎ足のような、
余裕の無い毎日で。

君が去ったあの日から、
私はぽつりと独りきり。
冬の陽だまりの温かささえ、
いつしか、忘れてしまっていた。

「あたたかいね」

この小さな言葉でさえ、
もう、君には届かない。
吹き抜ける北風よりも、
凍てつく朝霜よりも、
私の孤独は冷たかった。

君のいない冬。
凍りつく寒さよりも、
静かな冷たさの中で、
漸く見つけた微かな温もりが、
君の微笑みじゃないことが、
何より心を切り裂いた。

それならば。
凍える冬の冷たさに、
身を縮めて耐えるほうが、
ずっと楽だったのに。

そんな、儚い強がりさえも、
冬の陽射しの柔らかさに、
少しずつ溶けていく。

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