霜月 朔(創作)

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12/12/2024, 9:03:09 AM


何でもないフリ




君はとても幸せそうに、
柔らかな笑みを、
浮かべるようになった。

小さい頃から、
君と俺は友達で、
まるで兄弟のように、
ずっと側にいた。

君は子供の頃から、
俺を頼ってくれてた。
だから、俺は君にとって、
一番の理解者だと信じてた。

だけど、大人になった君には、
大切な人ができた。
君に寄り添う、
俺の知らない男――
…君の恋人。

その姿を見て、
俺は心から、嬉しくて。
でも、その喜びに、
ほんの少しだけ、
針が刺す様な痛みが混じるんだ。

恋人と手を繋ぎ、
幸せそうに微笑む君。
俺は、何でもないフリをして、
余裕の笑みを浮かべる。
「俺は『兄貴』みたいな存在だから、
いつでも頼ってよ。」と。

分かってる。
本当は俺は、
『兄貴』なんかじゃなくて、
『恋人』になりたかったんだ。
だけど、この気持ちは、
もう君には、絶対言えないんだ。

いずれ来るだろう、
純白の衣装を纏った、
君にとって最高に幸せな日に、
俺は、何でもないフリをして、
微笑むことができるかな?

12/11/2024, 5:15:38 AM

仲間




夜の風が冷たく吹き抜ける。
淋しげな虎落笛だけが響く中、
彼奴の声が耳元で蘇る。

笑い合い、涙を分け合った日々は、
今や霧のように消え去った。

彼奴はいつも、
「大丈夫だ」と笑ってくれた。
俺達なら乗り越えられる、と。

俺は、その背中を追いかけた。
そう。俺も信じていたんだ。
…希望という幻を。

だが、彼奴は。
俺の眼の前で…逝った。
刃に貫かれた、彼奴は、
もう二度と、戻りはしない。

彼奴は。
何を守る為に、命を賭けたのか。
俺が伸ばした手は、
虚空を掴むだけだ。

夜明けは来ても、
俺の前には闇が広がる。
彼奴のいない、この道を、
俺は独り、
歩き続けなければならない。

俺に残されたのは、
仲間という絆の残渣だけ。

12/9/2024, 12:47:26 PM

手を繋いで



荒れた廃墟の奥、
君は、湿った土の匂いに包まれて、
虚空を見詰め、独り佇む。
夜は深く、月の光は、
細い刃のように射す。

どうか…頼む。
私と手を繋いでくれないか。
君が凍えてしまう前に。

君の指が触れた時、
鋭い痛みが、
さざ波のように心を叩いた。

道は闇に飲まれ、
行く先はまるで見えない。
足元には自分の影しかなく、
君の目に映る黒い深淵は、
私の中にも広がる。
君に絡まり付くのは、
逃げ場のない、底無しの沼。

君が遠くなっていく。
私が、君の名を叫んでも、
その声は、闇の中に霧散する。

手を繋いで欲しい。
その冷え切った魂に、
触れさせて欲しい。
もし、君と共に居られるならば、
どんな深い闇に堕ちたとしても、
構いはしない。

お願いだから、
もう一度だけ、手を繋いで欲しい。
君に一時の安らぎを、
与える事が、出来るのであれば、
私は幸せなのだから。

夜が明けることのない、この世界で、
ただひとつ、願うことがある。
君に希望を知って欲しい。
私が消える、最期の瞬間まで。



………………

ありがとう、ごめんね


貴方の哀しげな温もりが、
夜明け前の朝靄のように、
私の孤独を、そっと包んでくれた。
恋を失い、霧に迷う旅人のように、
当所も無く彷徨っていたこの心を、
静かに受け止めてくれたんだ。

分かってたんだ。
貴方にとって私は、
貴方の恋人の、開けた穴を埋める、
只の形代だって。

それでも私は、
貴方を本気で愛したくて、
苦悩の泥沼の中で、
藻掻いていたんだ。

でも…私は、心の片隅で、
失った恋を忘れられなくて、
貴方の向こうに、
昔の誰かを映していたんだ。

お互いを求め合いながらも、
触れるたびに消えていく泡のように、
本当に愛せなくて。
最後まで私達は、
砂漠の蜃気楼を追いかける、
幻の恋人同士だったね。

私を愛してるふりをしてくれて、
ありがとう。
貴方を心から愛せなくて、
ごめんね。

恋人の元へ帰る貴方の背中は、
何処か甘さと切なさが滲んでいて。
そんな君の影に、
私は、そっと言葉を送るんだ。

…ありがとう、ごめんね。

12/8/2024, 8:25:24 AM

部屋の片隅で



闇が支配する、部屋の片隅で、
私は、押し寄せる孤独に怯え、
震えていました。

私は全てを拒み、
手負いの獣のように、
寄る者を牙で追い払い、
優しさなど信じられず、
視界には何も映らず…。
膝を抱え、灯りもない
この部屋の片隅で、
只、存在していたのです。

そんな私に、
貴方は愛をくれました。
凍て付いた私の心を、
少しずつ解かすように私の心に触れ、
闇の中に、微かな光を、
灯してくれたのです。

闇に怯える私に、
人の優しさという温もりを、
教えてくれた、貴方。
貴方は、私の全てになりました。

私は全てを差し出します。
私は貴方を飲み込みたいのです。
生命さえも、貴方の為ならば。
惜しくはありません。

ですから、お願いです。
貴方の全てを私に下さい。
その視線も、心も、身体も、
そして……魂さえも。
私の心も身体も、貴方の全てで、
満たして欲しいのです。

もし貴方が微笑みを拒むなら、
私は。貴方の全てを、
私の鎖で、絡め取るでしょう。
その声も、温もりも、
口唇から零れる、微かな呼吸さえ、
全て、私のものにする為に。

これからはもう、
部屋の片隅…ではなく、
終わりなき闇の中で、二人きり。
身も心も魂も、
全て境界を無くし、溶け合い、
永遠に揺蕩いましょう。

12/6/2024, 4:17:35 PM

逆さま


世界は全て、逆さまでした。

信じていた人は、
裏切り者へと姿を変え、
大切だと思っていたものは、
手の中で霧の様に消え、
疑わずにいた真実は、
ただの幻影に過ぎず、
追えば追うほど、
遠ざかっていくのです。

積み上げた常識の塔は、
脆く、儚く崩れ去り、
私の足元に、瓦礫となって、
散らばりました。

私は、全てを失いました。
手にしていたもの全てが、
反転し、裏返り、
味方の盾は敵の刃となり、
私を滅ぼそうとしています。

それでも。
この世界は、逆さまでした。
善意は悪意に溶け、
悪意は善意を装い、
天使の慈悲は、悪魔の微笑みとなり、
悪魔の牙は、天使の涙となるのです。

黒と白の境界は揺れ動き、
黒と白とを奪い合うその有り様は、
まるでチェスの盤面の様に、
黒と白とが鬩ぎ合い、
いつ逆さまになるか、
誰にも分からないのです。

この逆さまの果てに、
私は何を見つけるのでしょう?
滅びゆく私自身でしょうか、
それとも。
…新たな希望、でしょうか。




 
 ……………




眠れないほど


眠れないほど、
苦悩に絡め取られる。
眠れないほど、
後悔に蝕まれる。

一人、災厄から逃れた自分が、
本当に赦されるのか。
疑問は、胸を焼き、心を切付け、
答えは、未だ深い闇の中。

贖罪を求め、彷徨う日々。
悪意の海に沈み、
絡み付く絶望の触手が、
深淵へ引き摺り込む。

全てを諦め掛けた。その時、
必死に藻掻く、人々を見た。

この世界の不条理に縛られ、
その鎖に絡め取られているのは、
自分一人ではない。

遠い空に、手を伸ばした。
これは同胞への裏切りか。
自身に問い掛けながら、
立ち上がり、歩き出す。

眠れないほど、
思い悩む夜。
…それでも、夜明けはやってくる。

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