霜月 朔(創作)

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逆さま


世界は全て、逆さまでした。

信じていた人は、
裏切り者へと姿を変え、
大切だと思っていたものは、
手の中で霧の様に消え、
疑わずにいた真実は、
ただの幻影に過ぎず、
追えば追うほど、
遠ざかっていくのです。

積み上げた常識の塔は、
脆く、儚く崩れ去り、
私の足元に、瓦礫となって、
散らばりました。

私は、全てを失いました。
手にしていたもの全てが、
反転し、裏返り、
味方の盾は敵の刃となり、
私を滅ぼそうとしています。

それでも。
この世界は、逆さまでした。
善意は悪意に溶け、
悪意は善意を装い、
天使の慈悲は、悪魔の微笑みとなり、
悪魔の牙は、天使の涙となるのです。

黒と白の境界は揺れ動き、
黒と白とを奪い合うその有り様は、
まるでチェスの盤面の様に、
黒と白とが鬩ぎ合い、
いつ逆さまになるか、
誰にも分からないのです。

この逆さまの果てに、
私は何を見つけるのでしょう?
滅びゆく私自身でしょうか、
それとも。
…新たな希望、でしょうか。




 
 ……………




眠れないほど


眠れないほど、
苦悩に絡め取られる。
眠れないほど、
後悔に蝕まれる。

一人、災厄から逃れた自分が、
本当に赦されるのか。
疑問は、胸を焼き、心を切付け、
答えは、未だ深い闇の中。

贖罪を求め、彷徨う日々。
悪意の海に沈み、
絡み付く絶望の触手が、
深淵へ引き摺り込む。

全てを諦め掛けた。その時、
必死に藻掻く、人々を見た。

この世界の不条理に縛られ、
その鎖に絡め取られているのは、
自分一人ではない。

遠い空に、手を伸ばした。
これは同胞への裏切りか。
自身に問い掛けながら、
立ち上がり、歩き出す。

眠れないほど、
思い悩む夜。
…それでも、夜明けはやってくる。

12/6/2024, 4:17:35 PM