手を繋いで
荒れた廃墟の奥、
君は、湿った土の匂いに包まれて、
虚空を見詰め、独り佇む。
夜は深く、月の光は、
細い刃のように射す。
どうか…頼む。
私と手を繋いでくれないか。
君が凍えてしまう前に。
君の指が触れた時、
鋭い痛みが、
さざ波のように心を叩いた。
道は闇に飲まれ、
行く先はまるで見えない。
足元には自分の影しかなく、
君の目に映る黒い深淵は、
私の中にも広がる。
君に絡まり付くのは、
逃げ場のない、底無しの沼。
君が遠くなっていく。
私が、君の名を叫んでも、
その声は、闇の中に霧散する。
手を繋いで欲しい。
その冷え切った魂に、
触れさせて欲しい。
もし、君と共に居られるならば、
どんな深い闇に堕ちたとしても、
構いはしない。
お願いだから、
もう一度だけ、手を繋いで欲しい。
君に一時の安らぎを、
与える事が、出来るのであれば、
私は幸せなのだから。
夜が明けることのない、この世界で、
ただひとつ、願うことがある。
君に希望を知って欲しい。
私が消える、最期の瞬間まで。
………………
ありがとう、ごめんね
貴方の哀しげな温もりが、
夜明け前の朝靄のように、
私の孤独を、そっと包んでくれた。
恋を失い、霧に迷う旅人のように、
当所も無く彷徨っていたこの心を、
静かに受け止めてくれたんだ。
分かってたんだ。
貴方にとって私は、
貴方の恋人の、開けた穴を埋める、
只の形代だって。
それでも私は、
貴方を本気で愛したくて、
苦悩の泥沼の中で、
藻掻いていたんだ。
でも…私は、心の片隅で、
失った恋を忘れられなくて、
貴方の向こうに、
昔の誰かを映していたんだ。
お互いを求め合いながらも、
触れるたびに消えていく泡のように、
本当に愛せなくて。
最後まで私達は、
砂漠の蜃気楼を追いかける、
幻の恋人同士だったね。
私を愛してるふりをしてくれて、
ありがとう。
貴方を心から愛せなくて、
ごめんね。
恋人の元へ帰る貴方の背中は、
何処か甘さと切なさが滲んでいて。
そんな君の影に、
私は、そっと言葉を送るんだ。
…ありがとう、ごめんね。
12/9/2024, 12:47:26 PM