霜月 朔(創作)

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12/6/2024, 4:17:35 PM

逆さま


世界は全て、逆さまでした。

信じていた人は、
裏切り者へと姿を変え、
大切だと思っていたものは、
手の中で霧の様に消え、
疑わずにいた真実は、
ただの幻影に過ぎず、
追えば追うほど、
遠ざかっていくのです。

積み上げた常識の塔は、
脆く、儚く崩れ去り、
私の足元に、瓦礫となって、
散らばりました。

私は、全てを失いました。
手にしていたもの全てが、
反転し、裏返り、
味方の盾は敵の刃となり、
私を滅ぼそうとしています。

それでも。
この世界は、逆さまでした。
善意は悪意に溶け、
悪意は善意を装い、
天使の慈悲は、悪魔の微笑みとなり、
悪魔の牙は、天使の涙となるのです。

黒と白の境界は揺れ動き、
黒と白とを奪い合うその有り様は、
まるでチェスの盤面の様に、
黒と白とが鬩ぎ合い、
いつ逆さまになるか、
誰にも分からないのです。

この逆さまの果てに、
私は何を見つけるのでしょう?
滅びゆく私自身でしょうか、
それとも。
…新たな希望、でしょうか。




 
 ……………




眠れないほど


眠れないほど、
苦悩に絡め取られる。
眠れないほど、
後悔に蝕まれる。

一人、災厄から逃れた自分が、
本当に赦されるのか。
疑問は、胸を焼き、心を切付け、
答えは、未だ深い闇の中。

贖罪を求め、彷徨う日々。
悪意の海に沈み、
絡み付く絶望の触手が、
深淵へ引き摺り込む。

全てを諦め掛けた。その時、
必死に藻掻く、人々を見た。

この世界の不条理に縛られ、
その鎖に絡め取られているのは、
自分一人ではない。

遠い空に、手を伸ばした。
これは同胞への裏切りか。
自身に問い掛けながら、
立ち上がり、歩き出す。

眠れないほど、
思い悩む夜。
…それでも、夜明けはやってくる。

12/5/2024, 5:09:46 AM

夢と現実


夢は刃の様に残酷だ。
触れれば、心が裂け、痛みを与える。
だから私は、現実を握り締める。
…君が私を愛している事を知りながら。

叶わぬ夢。
君と手を取り、この醜悪な世界を去り、
冥府の闇へと堕ちて行きたい。
それが叶わぬ夢だと、分かっていても、
私は君にそう願ってしまうんだ。

だが、君は、
私の渇望に気付く事なく、
無邪気な瞳で私を見詰めている。

私は夢を、
心の奥底に押し殺し、
君に微笑みかけるしかないんだ。


……


現実は、
鋭利な光のように残酷です。
叶わない願望さえ曝け出します。
だから私は、夢に浸るのです。
…貴方が私を愛している事を知りながら。

叶わない現実。
貴方に抱き締められ、口唇を重ね、
貴方と私の境界を消して、溶け合いたい。
それは現実にはならないと、分かっていても、
私は貴方にそう願ってしまうのです。

ですが、貴方は、
私の心の叫びには耳を貸さず。
優しい微笑みを浮かべるのです。

私は現実に、
重たい鎖の様に縛られ、
貴方に微笑むのです。


……


夢と現実が重なり合う瞬間、
刹那の閃光が迸る。

後に、残るのは…。
夢か、現実か。

それとも、
真っ赤に染まる生と死の、
…二人だけの永遠か。

12/4/2024, 7:50:53 AM

さよならは言わないで



貴方が私に寄り添う理由を、
私は気付いてた。
恋人が戻らない、寂しさを、
私で埋めようとしているんだ、って。

それでも、私は構わなかった。
一時の止まり木でしかないと、
分かっていても、
今の貴方に必要なのが、
この腕の温もりならば。

だけど、何時からか。
貴方は、私の温もりを、
求めなくなった。

気がつけば、
貴方の隣には彼が戻ってた。
その、彼の背格好や仕草は、
どこか、私に似ていた。
その事が、私の心を締め付けた。

さよならは言わないで。
これから…貴方はもう、
私の胸で泣く事も、
この腕で眠る事も、
ないだろうけれど。

それでも。
さよならは言わないで。
私たちの別れには、
もっと柔らかな言葉が、
似合う筈だから。

笑って――言って。
『じゃあ、またね。』

12/2/2024, 5:57:45 PM

光と闇の狭間で



私は光と闇の狭間で、
ただ、揺蕩っていた。

光の射す場所を目指す気概も無く、
闇の深淵に沈みゆく勇気も無く、
その狭間に、
ただ、存在していた。

光と闇の狭間で、
私は見た。
闇の底に囚われた、
哀しみに染まった、蒼き瞳を。

この美しき瞳に、
光の温もりを教えたい。
私は、彼の手を取った。

光と闇の狭間で、
私は必死に、藻掻いた。
彼を救いたい。
ただ、その想いで。

彼を光の元へ。
その生命を引き上げる。
代償として、私の身体は、
深い闇へと引き摺り込まれてゆく。

それでも、構わない。
闇が私を喰らおうとも、
彼の蒼き瞳が、
光を知る事が、出来るのならば。

闇に沈む、その刹那。
私は――光を見た。

それは、永遠にも似た瞬間。
そして、私は、
深淵へと消えていく。

12/2/2024, 8:34:27 AM

距離




君はずっと、俺の傍にいた。
親友で、ライバルで、
…そして、憧れの人。

あの日、初めて、
君と出会ったあの日から、
君はいつも俺の傍にいた。
それなのに、俺は。
君に手を伸ばすことが、
出来ずにいたんだ。

時を重ね、君との距離は、
確かに縮まった筈なのに、
どうしても、埋められない距離が、
俺と君との間に、存在しているんだ。

君は、きっと気付いていない。
俺の、この胸の痛みに。
君が俺の近くで微笑む度に、
俺の心に刺さる、見えない棘に。

本当は、君の隣に立ちたい。
君の目に、俺の存在を映して欲しい。

だけど、俺は。
君に相応しい人間じゃないから。
だから、俺には。
この距離を縮める勇気もなく、
君を見詰めるだけで、
精一杯なんだ。

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