霜月 朔(創作)

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11/14/2024, 8:49:16 PM

秋風



秋風が冷たく吹き抜ける。
凍えた私の心に、
更に、冷たさを刻む様に。

街はすっかり秋色に染まり、
冬の気配を纏う秋風が、
無遠慮に頬を撫でる。

肩を寄せ合う恋人達。
手を繋ぐ親子連れ。
その温もりを確かめるように、
足早に行き過ぎる。

そんな人の波の中。
私は…ただ独り。
私の隣に『彼』がいた日々は、
遥か遠い記憶の中。

寒がりの私を包み込み、
「二人なら寒くないね」と、
優しく微笑んでくれた、
彼の温もりは、もう戻らない。

掌に残るその感触だけが、
今も鮮やかに蘇る、
愛しく切ない想い出。

だが。
『彼』はもう、
私の隣にはいない。
季節が幾度巡っても、
空いたままの…私の隣。

「独りでも大丈夫」と。
自分に嘘を吐く事にも、
すっかり慣れてしまった。

秋風が冷たく吹き抜ける。
彼の居ない寒く冷たい冬が、
また、静かにやって来る。

11/13/2024, 10:34:44 PM

また会いましょう



貴方は私の全てでした。

私に色々教えてくれた、
温かい声。
私の頭を撫でてくれた、
優しい手。
私を見守ってくれた、
穏やかな瞳。

私に注がれた、
貴方からの全ての愛。
それが、絶望に居た私を、
生かしてくれたのです。

私は貴方を愛しています。
ですが。
貴方にとって、私は、
可愛い教え子でしか、
なかったと知りました。

貴方の心には、
私ではない男が住んでいて。
その男が、
貴方の心を守っていたなんて。

でも、大丈夫です。
これからは、私が貴方を守ります。

貴方の隣に立つのは。
貴方の心を守るのは。
あんな男より、
私の方が相応しい事を、
貴方に教えてあげます。

私と別の世界へ行きましょう。
そこには、
貴方を苦しめる世間も、
私から貴方を奪う男も、
私を狂わせる悪魔も、
居ない筈、ですから。

真っ赤に染まる貴方。
閉じられた瞳。
冷たくなっていく身体。

私は貴方の血で、
真っ赤に染まったナイフを、
自らの胸に押し当て、
目を閉じます。

新しい世界で、
…また会いましょう。

11/12/2024, 7:01:27 PM

スリル



貴方と私は、
夜の帳が降りる時だけの、
密かに結ばれる、仮初めの恋人。

この恋が、
破滅に向かう階段と知りながら、
それでもいいと、胸が囁く。
抗い難い、愚かな甘さ。

貴方には恋人がいると、
知っているのに。
それでも、貴方を求めずにはいられない。
私の心は、静かな毒に染まってゆく。

夜が明ける頃、
貴方は私の腕を抜け出し、
まるで何事もなかったかのように、
美しく儚く微笑む。

「また、会いに来てください。」
甘く囁かれる、その言葉に、
私は幾度も裏切られ、
そして…同じだけ救われてる。

正しさも未来も、関係ない。
私達に許されているのは、
この危うい絆だけ。

だけど。だから。
ただ、この夜を、
ただ、この瞬間を、
命が尽きるほどに、感じたいんだ。

朝の静けさに身を沈め、
名残を抱いて、
私は独り、貴方の部屋を後にする。

このスリルが、私を生かし、
やがて…私を殺すだろう。
それでも、私は、
貴方を求めずにはいられないんだ。

11/11/2024, 7:06:24 PM

飛べない翼



俺はもう、二度と、
飛ぶ事は出来ない。

背にある翼は動かず、
ただの飾りに成り果てた。

今の俺は、
地上から、羨望の眼差しで、
輝く空を見上げるだけ。

動かない翼など、
あるだけ無駄だ。
引き裂いてしまいたい衝動が、
激しく胸を抉る。

飛べない。
動かない。
なのに、痛みだけは残る。

飛べない翼。
役立たずの羽根。

大空を自由に翔けていた。
その記憶が突き刺さり、
地上で俯き、唇を噛む。

…今の俺には、
あの輝く大空は、
眩し過ぎるんだ。

11/10/2024, 7:55:39 PM

ススキ



怖いほど美しい満月が、
夜の静けさを照らします。

せっかくの月見だからと、
お団子とススキを、
供えた、貴方。

お月見には、月餅や西瓜を、
供えるのでは?
私がそう問い掛けると、
貴方は驚いた顔をしました。

月見も花見もないほど、
遠く、文化も違う、
異国に流れ着き、
ほんの少しだけ、
似た出身の貴方と出会って。

少し似ていて、少し違う。
お互いの故郷の文化が、
どこか不思議で、懐かしくて。

月明かりに映る、
ススキの影が、
寂しげに揺れているのを、
静かに見つめていました。

今、私の隣に貴方がいることは、
儚い奇跡だと感じて。

だから私は、
この夜を、心に刻み、
そっと貴方に寄り添うのです。


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