霜月 朔(創作)

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秋風



秋風が冷たく吹き抜ける。
凍えた私の心に、
更に、冷たさを刻む様に。

街はすっかり秋色に染まり、
冬の気配を纏う秋風が、
無遠慮に頬を撫でる。

肩を寄せ合う恋人達。
手を繋ぐ親子連れ。
その温もりを確かめるように、
足早に行き過ぎる。

そんな人の波の中。
私は…ただ独り。
私の隣に『彼』がいた日々は、
遥か遠い記憶の中。

寒がりの私を包み込み、
「二人なら寒くないね」と、
優しく微笑んでくれた、
彼の温もりは、もう戻らない。

掌に残るその感触だけが、
今も鮮やかに蘇る、
愛しく切ない想い出。

だが。
『彼』はもう、
私の隣にはいない。
季節が幾度巡っても、
空いたままの…私の隣。

「独りでも大丈夫」と。
自分に嘘を吐く事にも、
すっかり慣れてしまった。

秋風が冷たく吹き抜ける。
彼の居ない寒く冷たい冬が、
また、静かにやって来る。

11/14/2024, 8:49:16 PM