霜月 朔(創作)

Open App
9/9/2024, 6:15:50 PM

世界に一つだけ


例え、私が死んだとしても、
他の誰かが、私の席に座り、
そして私は、忘れ去られる。
只、それだけの事でしょう。

画一化された人材が求められる、
こんな社会では、
感情なんてものは、
有るだけ辛くて。
個性なんてものは、
有るだけ邪魔で。

それでも。
願わずには、要られませんでした。

もしも。こんな私を。
世界に一つだけの存在として、
赦してくれる世界があるならば。
私はどんなに幸せか、と。

私は。
私で在りたいのです。

ですから…。
お願いします。
有りの侭の私を、
世界に一つだけの存在として、
愛してはくれませんか?

9/8/2024, 6:55:56 PM

胸の鼓動



私は貴方の身体に、
ナイフを突き立てました。

貴方が憎いからではありません。
こんな醜い世の中に、
雁字搦めになって、
苦しんでいる貴方を、
救いたかったからです。

貴方の身体からは、
赤い血が止め処無く流れ、
貴方の胸の鼓動は、
次第に弱くなっていきます。

誰よりも大切な貴方に、
私が永遠の安らぎをあげます。
だから…。

…お休みなさい。愛しい貴方。



私は瀕死の君に、
必死に蘇生措置を試みる。

眼の前の君は、大量に出血し、
呼吸も心拍も止まっている。
君が助かる見込みは、
限りなく低いだろう。

君を死なせるものか、と、
私は力の限り、
君をこの世に留めようとする。
どんなに辛くて苦しくても、
君には、生きていて欲しいんだ。

圧迫止血をし、
心臓マッサージを繰り返す。
君の胸の鼓動が、そして呼吸が、
弱々しくも戻ってきた。

誰よりも大切な君に、
私が生きる喜びを教えてあげる。
だから…。

…お帰り。愛しい君。

9/7/2024, 5:53:41 PM

踊るように



明かりの灯らない、
蒼い月が照らす部屋で、
独り、踊るように、
ステップを踏む貴方。

まるで貴族の様な、
優美で華麗な身の熟しで、
誰もいない虚空を見詰めて、
そっと手を伸ばし、
優しく微笑む貴方…。

僅かに潤んだ、貴方の瞳には、
一体、何方が、
映っているのでしょう?

窓から差し込む月明かりが、
貴方の影を作り出します。
貴方は、とても楽しげに、
踊るように、ステップを踏んでいるのに、
貴方の影は、酷く悲しげに、
何方かを求めて、彷徨います。

大切な人と、踊るように。
独りきりの貴方は、
月明かりが照らす、
静かな部屋の中で、
夢に揺蕩っていました。

9/6/2024, 6:34:33 PM

時を告げる



満月の夜は、
言いようもない不安に襲われ、
眠れなくなります。

満月は私を狂わせます。
不安は焦燥感に変わります。
私は奥歯を噛み締め、
じっと耐えるのです。

私は耳を澄ませます。
夜明けの時を告げる鐘の音を、
只管に待っています。

夜が明ければ、
満月の恐怖から、
開放される。
そう信じて。

貴方の温もりを頼りにして、
貴方の手を握り締め、
貴方の鼓動の音に、
時が過ぎ行くのを重ねます。

……。
私と貴方の、
悪夢の戦いの夜の、
終わりを知らせる、
時を告げる鐘の音が聞こえた時、
私が正気で居られたら、
一杯褒めて下さいね。

9/5/2024, 6:11:33 PM

貝殻



ある地方では、
蛤は良縁を願う縁起物、だそうだ。

蛤の貝殻は、
対になってるもの以外とは、
ぴたりと合わないから…。
そんな理由らしい。

幸せを願う、貝殻。
なんかロマンチックじゃないか。
そんな事を思いつつ。

だけど、俺は。
蛤じゃなくて、鮑だな。

俺の事なんか、
全然気に留めてくれない、
彼奴の背を眺めて、
溜息を吐く。

…磯の鮑の片思い。

鮑は、ああ見えて、
巻き貝だから、
対になる貝殻は、ないんだとさ。

Next