雨に佇む
雨が降り頻る朝。
独り森を歩く。
朝靄のような霧雨は、
次第にその雨粒を、
大きくしていった。
雨粒は森の木々の、
豊かな緑の葉を叩く。
その静かな音が、
疲れ切った私の心を、
僅かに癒やしてくれる。
そんな気がした。
私は雨が降り頻る森で、
そのまま、独り佇む。
雨を避ける事なく。
降り頻る雨が、
私の罪を洗い流してくれないか。
そう想いながら。
雨に佇む。
雨は私も木々も地面も、
別け隔てなく濡らしていく。
そう。私は、孤独だ。
私は雨降る中、
森を彷徨った。
そして。
雨で烟る森の出口に、
私を待つかの様に、雨に佇む
懐かしい人影を見た。
私の日記帳
私の日記は、
貴方に伝えたい事で、
溢れています。
桜の花の話や、
美味しいお菓子の話。
街での噂話など。
日常の小さな出来事を、
私は、目覚めぬ貴方を想い、
貴方への恋慕と共に、
些細な想い出も、
日記帳に書き連ねていくのです。
貴方が、目覚めたら。
私が記し続けた日記帳を、
読んで欲しいです。
私と貴方が、
言葉を交わせなかった期間に、
ぽっかり空いてしまった、
二人の想い出と時間を、
日記で埋めたいのです。
そんな、思いを詰め込んだ、
私の日記帳が、
もう何冊も何冊も積み重なり、
貴方の目覚めを待っています。
向かい合わせ
憧れの君と俺は、
何でも正反対。
仕事が出来て、
上司の信頼も厚く、
部下から頼られてて、
間違った事には、
きちんと言い返せる。
なのに、とっても優しくて。
そんな君と違って、
俺は、人の影に隠れて、
言われた仕事を、
黙々と熟すだけ。
ある日。
君とお茶をすることになった。
向かい合わせに座る、
君と俺。
真逆の二人。
ほら。
俺は右手でカップを持ったけど、
君は左手でカップを持ったんだ。
ああ、こんな事まで、
君と俺は真逆なんだ…って。
だけど。
向かい合わせだと。
まるで君と同じ動きを、
しているみたいに見えて。
少しだけ、
君に近付けた気がしたんだ。
やるせない気持ち
今日もお前は、
俺の目を避ける様に、
部屋に籠もった。
理由は、分かっている。
また、お前は、
自分を自分で罰しているんだろう。
何かあると、自傷行為に走る。
自分を切りつけ、殴りつける。
それはお前の、
ガキの頃からの癖。
それを、見て見ぬ振りをする俺は、
遣る瀬無い気持ちに、
一人、苛まれる。
何故、お前は、
俺を頼ってくれない?
何故、お前は、
全部一人で抱え込むんだ?
そんなに俺は、
頼りないのか、と。
遣る瀬無い気持ちを抱えて、
俺は、溜息を吐くんだ。
海へ
海辺の夏の夜。
貴方と二人で、浜辺を歩きます。
私達の頭上には、
蒼い月が空に輝いていて、
星達が煌めきを添えています。
夜の海を見ていると、
全てを海に投げ出して、
そのまま波間に、
揺蕩ってしまいたくなります。
この想いに素直に従えば、
私は楽になれるでしょう。
ですが。
繋いだ貴方の手の温もりが、
私をこの世に繋ぎ止めていました。
ふと、貴方が。
この世から消える事を、
望んでいると、分かってしまいました。
貴方が一緒に居てくれるなら、
私は何処へ行っても幸せです。
そう言って、私は微笑んで見せました。
貴方と繋いでいたその手に、
力が籠もったのが解りました。
私も、強く握り返しました。
何があっても貴方と離れないように。
『さあ。海へ…』
ふと、暗い波間が、
私達を呼んでいる気がしました。
大丈夫です。
貴方さえ、私の隣に居てくれるなら、
私は幸せです、から。