霜月 朔(創作)

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8/2/2024, 7:16:16 PM

病室


目が覚めたら、病室だった。

どうにも寝心地の悪いベッド。
飾り気の全くない内装。
消毒液が微かに匂う室内。
そして。
花瓶に生けられた、
不釣り合いな程鮮やかな花々。

手を動かしてみる。
邪魔な管が纏わりつく。
管が繋がれた手の甲が、
ズキリと痛むのは、
点滴の所為だろうか。

身体を動かしてみる。
まるで鎧でも着込んだかのように、
全身が馬鹿みたいに重たい。
身体を起こすのさえ、
ままならない。

ベッドの脇に飾られた、
悲しい程に綺麗な花々を眺める。
こんな状況の、こんな病室の、
唯一の、希望だ。

…だが、悪いな。
俺は心の中で謝る。
花瓶の水を変えてやる事さえ、
今の俺には、難しいらしい。

8/1/2024, 6:52:02 PM

明日、もし晴れたら


今日も良い天気だった。
キラキラした陽の光が、
今の俺には、酷く眩しくて。

空はこんなに晴れてるのに、
俺の心は…ずっと土砂降り。
憧れの先輩に、
恋人がいるって、
知っちゃったから。

先輩は、俺なんかに、
手が届く存在じゃないって、
最初から分かってたけど。
それでも、やっぱり落ち込んじゃって。
溜息ばかり量産してる。

そうだ。
明日、もし晴れたら。
一人で街に出掛けよう。

ずっと気になってた本を買って、
お気に入りのカフェに行って、
テラス席に座って。
大好きなフルーツのタルトと、
カフェラテを頼んで。
それっぽく読書しちゃおう。

きっと。
少しだけ、前向きな気分になれる筈。


7/31/2024, 5:05:57 PM

だから、一人でいたい。


こんな私にも。
嘗ては、愛した人が居た。

社会に馴染めず、人間関係に悩み、
心身共にボロボロだった、
そんな時。
私を救ってくれた人だった。

彼は私の全てになった。
こんなにも人を愛したのは、
初めての事だった。
彼の居ない人生など、
考えられなくなった。

だが。
彼と決定的な仲違いをした。
お互いに譲れなかった。
そして、彼と縁を切った。

私の心には。
ぽっかりと大きな穴が開いた。
何もする気になれなかった。
生きていても、意味が無いとさえ思った。

あんな想いは、二度としたくない。
誰かを好きになるから、
その相手を失った時に、
激しく傷付くのだ。

だから、一人でいたい。

もう二度と。
私が誰かを愛する事は、
無いだろう。


7/30/2024, 6:10:24 PM

澄んだ瞳


あの日、初めて会った君は、
とても澄んだ瞳をしていた。

人に裏切られて、騙されて、
社会から弾き出され、
誰かを頼る事も出来ず、
独りで生きてきた君。

人間としての最低限度の生活さえ、
出来ていなかったのだろう。
痩せ細り汚れ切った身体に、ボロボロの衣服。
君は、目を覆いたくなる程に、
見窄らしい姿をしていた。

それでも。
君の瞳の奥は…何処までも澄んでいたんだ。

こんな私が、
君にしてあげられる事は、
僅かかも知れない。

それでも。
こんなにも穢れ切って、
余りに醜い世の中で、
その澄んだ瞳が、汚れない様に。
その澄んだ瞳が、傷付かない様に。
その澄んだ瞳が、涙を零し続けない様に。
…そして、その澄んだ瞳を、
自らの意思で、
永遠に閉じてしまわない様に。

私が、君を護るよ。

7/29/2024, 5:34:10 PM

嵐が来ようとも



私はずっと独りでした。

家も無く、襤褸を纏い、
泥水を啜って生きている私を、
皆、見て見ぬ振りをしました。

だけど、貴方は違いました。
こんな私を連れ帰り、
食事を与え、服を与えて。
風呂に入れ、部屋を与えて。
教育を施し、仕事をくれました。

そして何より。
貴方は私に、
優しさと愛情を、
与えてくれたのです。

貴方が居てくれれば。
例え嵐が来ようとも、
怖くありません。

私はもう。
嵐の激しい風雨に、
怯えなくていいのです。

だって。
貴方の腕の中は、
何処よりも安全で、暖かくて、
安心できる場所なのですから。


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