霜月 朔(創作)

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7/12/2024, 6:49:16 PM

これまでずっと


私には、忘れられない人がいた。
初めて本気で愛した相手だった。
運命の人だとさえ、思った。

ある日、彼と喧嘩をした。
私は彼の言い分には耳を貸さず、
彼の元を去った。
だけど。私は彼を憎めなかった。
喧嘩の原因となった彼の主張は、
正しかったと解っていたから。

だから、私は、
彼を存在しない者、とした。
彼との想い出は無かった事にした。

これまでずっと。
自分に対してさえ嘘を吐いていた。
彼の事は忘れた、と。
本当は、彼に怒りを感じていたし、
彼を憎んでいたし、
…未だに愛していたのに。

もう、自分に嘘を吐くのは辞めよう。
素直に彼を恨み、彼に怒り、
彼と別れた事を悲しみ、
自分の非と弱さを認めよう。

そうすれば。きっと何時の日か。
未だ心に燻る、彼への想いを、
忘れる事が出来ると思うから。


……嘗て私が愛した君へ。
これまでずっと。
私の心の中に居てくれて有難う。
でも、漸く本当の意味で、
君の元から立ち去って、
前に歩き出せる気がするよ。



7/11/2024, 7:14:58 PM

一件のLINE


私のLINEのトークリストには、
未だに彼のトークルームが、
一番上にピン止めしてある。
彼と喧嘩別れした日からずっと、
メッセージなんか、
来たことなんてないのに。

彼の名前をタップしてみる。
メッセージの最後の方は、
私が送ったメッセージばかり。
それは全部未読のまま、
ずっと変わらない。

彼が、私個人のLINEを、
ブロックしていることなんか、
嫌って程、分かってる。
それでも、私と彼は同僚だから、
もしかしたら…って。

ある日の午後。
ふと届いた、一件のLINE。
通知に表示された、彼の名前。
慌てて開くと、
『会議開始時刻変更
15時→15時30分』
…ただ、それだけ。

でも。嬉しかった。
久しぶりの彼からのLINE。
例え、それが業務連絡だとしても。

彼に伝えたい事は、
泣きたくなる程一杯ある。
だけど。今は。
彼への愛しい想いも恋しい想いも、全て。
たった二文字に込めて、送ろう。

『了解』

彼の想いが戻ってきた。

 既読
 13:28

7/10/2024, 6:15:36 PM

目が覚めると


誰よりも大切な貴方。
でも、貴方はここには居ません。
何時戻るか知れぬ貴方を、
私は、一人待ち続けるのです。

貴方との想い出の品を抱き締め、
一人、眠る夜は寒くて。
きつく布団を握り締め、
哀しみに囚われないように、
強く目を瞑るのです。

そんな日々が、余りにも辛くて。
私は友達に救いを求めました。

ある朝、目が覚めると、
私の隣には、貴方ではない他の人が居て。
眩しい早朝の光が差し込む部屋で、
静かに眠る友達を眺め、
私は、密かに涙を流すのです。

目が覚めると。
そこは、絶望的な現実の世界。
私は貴方の居ない絶望から逃れようと、
今宵もまた、救いの手を、
必死に探し、求めるのでしょうか。

貴方は、未だ戻らない…。
それでも私は、何時までも、
貴方を、待ち続けるのでしょう。





7/9/2024, 6:18:24 PM

私の当たり前


朝。
コーヒーではなく緑茶を飲む。
主食はパンではなくご飯。
目玉焼きには醤油をかける。

私には当たり前の事でも、
貴方には、有り得ない事みたいで。

仕事では、5分前行動。
上司には絶対服従。
サービス残業は普通の事。

私には当たり前の事でも、
貴方には、信じ難い事みたいで。

私の当たり前は、
貴方の当たり前ではない。
だからこそ。
私には、貴方と過ごす事が、
刺激的で、魅力的なのです。

ですが。
何時の日か。
貴方の隣に居ることが、
私の当たり前になれば…と、
願わずには居られません。

こんな事。
貴方には、決して言いませんけれど。

7/8/2024, 6:02:42 PM

街の明かり


この山の中腹から、見下ろせる街には、
夜になると、暖かい色の明かりが、
幾つも灯ります。

暖かな明かりの数だけ、
幸せな家庭があるのでしょうか?
家族が仲良く食卓を囲み、
親と子が楽しく語らい、
夫婦がそっと肩を寄せ合う…。

そんな街の明かりを、遠目に見下ろし、
今宵も私は山の中に、独りきり。

私も、私の為に明かりを灯します。
野生動物から身を護る為にも、
不可欠な焚火の明かりは、
真っ暗な山の木々を、黄橙色に照らします。

孤独な私をも照らす焚火の炎は、
街の明かりにも似て、
こんなに暖かな色をしているのに。
その明かりに照らされている私は、
全く、幸せではないのです。

何時か。こんな私でも。
街の片隅に住処を持ち、
大切な人と、部屋に明かりを灯して、
あの、切ない程に幸せそうな、
街の明かりの一つになれる日が、
来るのでしょうか?

そんな、叶わぬ夢を抱いて、
今夜も一人、焚き火の明かりの元、
冷たい土の上に眠るのです。


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