霜月 朔(創作)

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これまでずっと


私には、忘れられない人がいた。
初めて本気で愛した相手だった。
運命の人だとさえ、思った。

ある日、彼と喧嘩をした。
私は彼の言い分には耳を貸さず、
彼の元を去った。
だけど。私は彼を憎めなかった。
喧嘩の原因となった彼の主張は、
正しかったと解っていたから。

だから、私は、
彼を存在しない者、とした。
彼との想い出は無かった事にした。

これまでずっと。
自分に対してさえ嘘を吐いていた。
彼の事は忘れた、と。
本当は、彼に怒りを感じていたし、
彼を憎んでいたし、
…未だに愛していたのに。

もう、自分に嘘を吐くのは辞めよう。
素直に彼を恨み、彼に怒り、
彼と別れた事を悲しみ、
自分の非と弱さを認めよう。

そうすれば。きっと何時の日か。
未だ心に燻る、彼への想いを、
忘れる事が出来ると思うから。


……嘗て私が愛した君へ。
これまでずっと。
私の心の中に居てくれて有難う。
でも、漸く本当の意味で、
君の元から立ち去って、
前に歩き出せる気がするよ。



7/12/2024, 6:49:16 PM