霜月 朔(創作)

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6/13/2024, 5:59:13 PM

あじさい



湿度が高くて、蒸し暑い日が続く、
憂鬱な梅雨の時期の、数少ない楽しみ。
それは、
…街に咲く、紫陽花の花。

どんよりとした重い灰色の空と、
飽きもせずに、滴り落ちる雨の雫に、
ぼんやりと霞んで見える街の景色の中で、
紫陽花だけは、
その花の青色と葉の濃緑色を、
はっきりと纏っている。

雨の中、一人、
道端に咲く紫陽花を眺める。
傘を叩く雨粒の音も、
今だけは、心地良く感じる。

不意に。
紫陽花には毒があるから、
気を付けて、と。
嘗ての恋人の言葉が、脳裏に蘇り、
ズキリと胸が痛んだ。

そうだ。
私の想いを、花言葉に託し、
彼に青い紫陽花を贈ろうか?
有毒植物である紫陽花を。

青い紫陽花の花言葉は…。
『美しいが、冷酷』

雨粒が、ポツリと一粒、
私の頬を濡らした。


6/12/2024, 6:33:19 PM

好き嫌い



野菜が苦手とか。魚が苦手とか。
甘いものが苦手とか。
嫌いな食べ物の事を、
『好き嫌い』と言います。

『好き嫌い』という言葉の中には、
『好き』という単語と、
『嫌い』という単語の、
両方が入っているのに。
『好き嫌いはある?』と問われると、
何故か、皆さん、
嫌いな食べ物の話だけをして、
好きな食べ物の事は、言いません。

『嫌い』と言う時より、
『好き』と言う時の方が、
幸せだと思うのですが。
人間とは不思議な生き物です。

でも。
『好き嫌い』が出来ることは、
幸せな事だとも、思います。
何故なら、
食べ物に困っていないから、
食べ物を選り好み出来るのですよね。

ほら。
嘗ての私のように、酷く貧しければ、
好き嫌いも言えず、
ゴミの中の残飯を漁り、
毒の無い野の草や草の根を齧って、
飢えを凌ぐしか、無いのですから…。

6/11/2024, 5:35:20 PM




辛い時、何かから逃げたい時は、
当て所無く街を彷徨います。

街を行く人々は、
それぞれ様々な感情を抱きつつも、
僅かに不機嫌そうな顔で、
足早に行き過ぎて行きます。

そんな人の波に流されながら、
私も特別幸せでも不幸でもない、
街を行く、只の通行人の一人だと、
ショーウィンドウに写る自分に、
言い聞かせるのです。

どうせ、私が、
苦悩に満ちた顔をしていても、
例え涙を流していても、
すれ違う人は、誰も気に留めはしません。
私が、家を出て5番目にすれ違った人の、
顔や髪型や服装。そして表情は勿論、
年格好や性別すら思い出せないように。

街を彷徨い歩いて。
何時か、何処かに辿り着けはしないか、と。
私が私で無くなる日が訪れる迄。
私は俯き、一人歩き続けるのでしょう。



6/10/2024, 6:57:04 PM

やりたいこと


毎朝、疲れが抜けきらないままの、
重たい身体を、無理矢理起こして、
朝食もそこそこに、仕事に向かう。

職場では、
奴隷同然にこき使われ、
休憩も碌に貰えなくて。
ミスすれば、罰が待ってる。

夜遅く、仕事が終わった時には、
最早、夕食を食べる気力も、
シャワーを浴びる気力もなくって。
狭くてボロい部屋の、
硬いベッドに倒れ込む。

やりたくなくても、
やらなきゃならない事と、
無理矢理やらされている事に追われ、
肉体的にも精神的にも経済的にも、
余裕なんか全然なくて。
自分のやりたいことさえ、
解らなくなっちゃってた。

ある夜。
ボクはフラフラの身体で、
夜空を見上げた。
星が涙に滲んで、
何時もより輝いて見えた。

…あ。
やりたいこと。
思いついた、よ。

『もう全部、終わりにしたい。』

そして、ボクはボクじゃ無くなった。

これからは、きっと、
今迄よりは、幸せになれるよ、ね?


6/9/2024, 6:34:25 PM

朝日の温もり
 


私は、一人きりでした。
ずっと、ずっと…。
何時戻るとも知れない彼を、
一人で待つ夜は、淋しくて。
布団に包まっても、酷く寒くて。
だから。
私は、貴方の優しさに甘えて、
貴方に温もりを求めました。

貴方は優しい笑顔で、
私の願いに応じてくれたけれど、
貴方の腕に抱かれる度に、
私の寒さは、増すばかりでした。

私と貴方は。
寂しさを埋めるだけの関係だと、
分かっていた筈なのに。
貴方が、私ではない他の人の背を、
とても哀しげな瞳で見つめている事が、
悲しくて、淋しくて。

貴方の腕の中は暖かいのに、
なのに、私の心は酷く寒々しくて。
でも結局、私は。
貴方から離れられないのです。

貴方の隣で目覚める朝は、とても寒くて。
朝日の温もりさえ、冷たく感じて。
私は、未だ微睡む貴方の胸に縋り付き、
何も気付かない振りをして、きつく目を閉じ、
そっと、願い事を呟くのです。

どうか、この許されざる夢から、
早く目覚められますように…と。

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