街
辛い時、何かから逃げたい時は、
当て所無く街を彷徨います。
街を行く人々は、
それぞれ様々な感情を抱きつつも、
僅かに不機嫌そうな顔で、
足早に行き過ぎて行きます。
そんな人の波に流されながら、
私も特別幸せでも不幸でもない、
街を行く、只の通行人の一人だと、
ショーウィンドウに写る自分に、
言い聞かせるのです。
どうせ、私が、
苦悩に満ちた顔をしていても、
例え涙を流していても、
すれ違う人は、誰も気に留めはしません。
私が、家を出て5番目にすれ違った人の、
顔や髪型や服装。そして表情は勿論、
年格好や性別すら思い出せないように。
街を彷徨い歩いて。
何時か、何処かに辿り着けはしないか、と。
私が私で無くなる日が訪れる迄。
私は俯き、一人歩き続けるのでしょう。
やりたいこと
毎朝、疲れが抜けきらないままの、
重たい身体を、無理矢理起こして、
朝食もそこそこに、仕事に向かう。
職場では、
奴隷同然にこき使われ、
休憩も碌に貰えなくて。
ミスすれば、罰が待ってる。
夜遅く、仕事が終わった時には、
最早、夕食を食べる気力も、
シャワーを浴びる気力もなくって。
狭くてボロい部屋の、
硬いベッドに倒れ込む。
やりたくなくても、
やらなきゃならない事と、
無理矢理やらされている事に追われ、
肉体的にも精神的にも経済的にも、
余裕なんか全然なくて。
自分のやりたいことさえ、
解らなくなっちゃってた。
ある夜。
ボクはフラフラの身体で、
夜空を見上げた。
星が涙に滲んで、
何時もより輝いて見えた。
…あ。
やりたいこと。
思いついた、よ。
『もう全部、終わりにしたい。』
そして、ボクはボクじゃ無くなった。
これからは、きっと、
今迄よりは、幸せになれるよ、ね?
朝日の温もり
私は、一人きりでした。
ずっと、ずっと…。
何時戻るとも知れない彼を、
一人で待つ夜は、淋しくて。
布団に包まっても、酷く寒くて。
だから。
私は、貴方の優しさに甘えて、
貴方に温もりを求めました。
貴方は優しい笑顔で、
私の願いに応じてくれたけれど、
貴方の腕に抱かれる度に、
私の寒さは、増すばかりでした。
私と貴方は。
寂しさを埋めるだけの関係だと、
分かっていた筈なのに。
貴方が、私ではない他の人の背を、
とても哀しげな瞳で見つめている事が、
悲しくて、淋しくて。
貴方の腕の中は暖かいのに、
なのに、私の心は酷く寒々しくて。
でも結局、私は。
貴方から離れられないのです。
貴方の隣で目覚める朝は、とても寒くて。
朝日の温もりさえ、冷たく感じて。
私は、未だ微睡む貴方の胸に縋り付き、
何も気付かない振りをして、きつく目を閉じ、
そっと、願い事を呟くのです。
どうか、この許されざる夢から、
早く目覚められますように…と。
岐路
人生は、選択の連続で。
その選択に、満足したこともあれば、
後悔した事も、ある。
でも。
一番後悔してるのは…。
君が私から去って行くのを、
黙って見送った事。
あの時、私が、
君と別れたくはないと、
恥も外聞もかなぐり捨てて、
懇願していたとしても、
多分君は、私の元を去っただろう。
だけど。
僅かとはいえ、残されていた、
君と共に居られる可能性を、
無碍に捨ててしまった後悔が、
今でも、私を苛むんだ。
人生の岐路。
後悔に塗れた選択。
それは、
君との未来を、諦めてしまった事。
もしかしたら。
もう一つの道の先には…。
君が今でも、
私の隣に居てくれてる未来が、
あったのかな?
世界の終わりに君と
この世界は、着々と、
滅びの日へと向かってる。
それは、人間が抗えない、
大きな『力』によるものらしい。
だけど。
君も、俺も。
この世が滅び行くのを、
指を咥えて眺めてられる程、
達観して無くて。
傍から見たら、
無様で醜いだろうけど、
それでも、
世界を救える可能性があるなら、と。
俺も君も、必死に藻掻いてる。
正直に言えば、
世界が破滅して死ぬだなんて、
…凄く、怖い。
でも。
世界の終わりに君と、
一緒に居られるのなら。
俺は、幸せだよ。