霜月 朔(創作)

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5/27/2024, 6:24:42 PM

天国と地獄


透けるように白い肌。
浮世離れした丁寧な所作。
世の中を知らない乙女の様に、
穏やかに微笑む君の姿は、
まるで、天使のようで。

けれど。
何処か物憂げな視線。
瞳の奥に揺蕩う絶望。
華奢でありながら、仄暗い心を、
押し隠して佇む君の姿は、
まるで、悪魔のようで。

そんな君との恋は、
余りに刺激的で。
まるで、天国と地獄を
行ったり来たりしてるみたいだ。

君の、紅を差した様に朱い、
その口唇から紡がれるのは、
天使の御告げなのか。
それとも、悪魔の囁きなのか。

今夜、私は。
天国と地獄の、
どちらに居るのだろう。

5/26/2024, 5:25:28 PM

月に願いを



夜、外に出て、空を見上げる。
今日は満月の夜。
いつも夜空に無数に瞬いている星々も、
満月の前では、何処か脇役みたい。

よく晴れた夜には、
孤独な日々を送るボクを、
その輝きで慰めてくれる、
大好きなきらきら星たちに、
『今夜だけは、ごめんね』と呟いて。
天高く、神々しくも寒々しい光を放つ、
青白い満月に、願いをかける。

お月様。
どうか、ボクを助けて。
ボクを空に引き上げて、
あなたの周りで、毎夜キラキラと輝く、
数多ある星の一つにして。

月に願いを。
叶うことのない願いだけど。
今のボクには、祈る事しか出来ないから。

でも。
明日の夜から、また。
満月は、少しづつ欠けていって。
そのうち、消えてなくなってしまう。
…叶わないボクの願いと、共に。

5/25/2024, 2:54:15 PM

降り止まない雨


今日は朝から雨が降っていた。
一人で過ごす雨の日は、いい。
騒がしい人の声も、外の喧騒も、
雨音が覆い隠してくれる。
なかなか降り止まぬ雨が格子となって、
私をここに閉じ込めてくれれば良いのに。
とさえ、思う。

私の心の中には、
ずっと、降り止まない雨が降っている。
それまで持っていた物も、立場も、
人間関係も、信頼も、愛情も、
全て捨て去った、あの日から。

窓の外を見ると、
先程より、雨脚は弱まり、
空が少しだけ明るくなってきた。
そろそろ雨が上がるのかもしれない。

雨を言い訳にして、
誰にも会わずにいられる時間も、
もうすぐ終わってしまうのかと思うと、
徐々に明るくなる空を、
つい、恨みがましい目でみてしまう。

窓の外の雨は、
直に降り止むだろう。
だが、
私の心の中は、尚も雨雲に覆われ、
雨が降り止む気配は、ない。

5/24/2024, 6:53:27 PM

あの頃の私へ



幼い頃から、まるで家畜の様に扱われ、
人としての生活も送れず、
いつも暑さ寒さや、飢えに苦しみ、
同じ立場の人間が死んでいくのを、
ただ見ていることしか、出来なくて…。

そんな、将来に希望も持てない生活の中。
夜、鉄格子の嵌った窓越しに見える、
満ち欠けする月だけが、
私の心の支えでした。

そんな、牢獄の様な場所から逃げても、
外の世界は、とても冷たくて。
人の悪意を避ける様に、
人里離れた山奥に隠れ住んで。

他人なんて、誰も信用なんて出来ない。
独りで生きるしかないんだと、
泥水を啜り、草の根を齧って生きていて。
夜、穴だらけの荒屋の天井から見える、
満ち欠けする月だけが、
私の生きる証でした。

世の中は理不尽だらけで、
多くの他人は私に悪意を向けますが、
それでも。
こんな私を愛してくれる人もいる事を、
私は漸く、知ったのです。

だから。
そんなに怖がらなくても、
存外、大丈夫ですよ、と。

他人に対して怯えきった、あの頃の私へ、
伝えてあげたいと、
大切な人と、温かい部屋の窓から、
月を見る度に思うのです。

5/23/2024, 11:51:10 AM

逃れられない


オレはオレを罰する。
握り拳で自分の顔を殴り付ける。
口一杯に血の味が広がった。

お母さん、御免なさい。
もう、赦して。
今は亡き母親に、
オレは何度も謝罪を繰り返す。

オレはオレを罰する。
鞭で自分の背中を打つ。
背中は腫れ上がり、血が滲んだ。

幾ら自分で自分を罰しても、
記憶の中の母親は、
オレを責め続ける。
…お前が悪い、と。

痛みで意識が遠くなっていく。
このまま、死んでしまえば、
楽なんじゃないか、なんて。
冷たい床に倒れ込んだまま、
一人で嗤ってる、オレがいる。

だって。
生きてる限り、母親の影から、
逃れられない、から。

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