霜月 朔(創作)

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4/30/2024, 2:58:16 PM

楽園



綺麗に飾り立てられた街。
馬車が走りやすい様に敷かれた石畳。
着飾った貴婦人達が行き交う、
華やかな大通り。

しかし。そんな華麗な街も、
路地一本隔てれば、
舗装もされない、でこぼこな細い道に、
吹けば飛ぶような、建物と言えない小さな小屋が、
ひしめき合う様に立ち並ぶ。
そんな狭く光も碌に射さない路上には、
痩せ細った人が、半ば倒れ込む様に座り込み、
垢に塗れ襤褸を纏った子供が、
今日を生きる為に、犯罪に手を染める。

見せ掛けの華やかな表通りも。
暗く汚れた裏通りも。
何一つ良い所なんて無い。
人の怨念や悪意が渦巻くだけの、
欲望の街。

そんな汚泥の中で、
溺れそうになりながら、
オレは必死に藻掻く。
そして、力尽き、
そのまま底へと沈んで…。

だけど。
闇に沈んだオレを、
誰かが、力尽くで光の元に引き摺り上げた。
…酷く強引に。
溺れたまま、闇に取り込まれる事を、
受け入れてしまったオレを、
陽のあたる場所に、連れ出したんだ。

オレは…死ねなかった。
なら。もう一度藻掻いて見ようかと思った。
…楽園を求めて。



4/29/2024, 3:06:13 PM

風に乗って


少し暖かくなってきたから、と、
仕事の合間に俺は、
部屋の窓を開けて、大きく息を吸う。
窓の外は、新緑が萌え、
疲れ切った俺の心が、
少しだけ軽くなった気がした。

耳を澄ますと、小鳥の鳴き声に混ざって、
風に乗って、微かな歌声が聞こえる。
きっと、あいつが、
掃除をしながら、歌っているのだろう。

恥ずかしがり屋のあいつは、
人前では歌わない。
一人で掃除をする時には、
こんなに愉しげに歌うのに。

風に乗ってやってきた、
あいつの本当の姿。飾らない歌声。
何時か俺の前で、歌って欲しい。
着飾らず、構えず。
自然体のあいつを見たいんだ。

窓から少しだけ顔を出し、
あいつへの想いを呟く。
面と向かっては、告げられない想いを。

俺の言葉が、風に乗って、
あいつの元に、届いてくれないだろうか。




4/28/2024, 2:55:52 PM

刹那


明日の夕暮れには、オレも、
その辺の道端で野垂れ死んでるかもしれない。
そう思うと、もうどうでも良くって。

幾ら身体や心が傷ついても、
僅かな金が手に入るならそれでいいし。
今、満腹になれるなら、と、
明日の食い扶持も使い果たして。

今が全てだと、刹那に生きる。

明日の朝には、オレも、
見知らぬ誰かに殺されてるかもしれない。
そう思うと、希望もなくて。

だけど。
こんな掃き溜めみたいな街から、
抜け出したくて、藻掻いてた。
でも、藻掻けば藻掻くほど、
闇は、沼のように身体に纏わり付き、
オレは底へと沈んでいく。

そんな時。
…そこに。
刹那の目をした貴方が、立っていた。

だからオレは…。
その一瞬に賭けてみようと思った。

4/27/2024, 2:47:23 PM

生きる意味

私に生きている価値はない。
これ以上生きていても、
見苦しいだけだ、と。
自らの喉元に、刃物を突き付ける。

ふと。
庭の桜の木の花の蕾が、
少し膨らんでいた事を思い出し。
最期に桜の花を見てから、
この世に別れを告げようと、
ナイフを下ろした。

この世に未練など無い筈なのに。
私はこんな事を繰り返す。

ある時は、
教え子が文字を書けるようになる迄は、と。
またある時は、
後輩が仕事を覚える迄は、と。
そしてまたある時は、
借りた本を返す迄は、と。
人から見れば取るに足らないだろう、
些細な理由を見つけては、
さも大事の様に、自らに振り翳す。

私に生きている価値は無い。
しかし。
死を選ぼうとする度に、私は、
無理矢理、生きる意味を見つけては、
生き恥を晒している。

4/26/2024, 2:54:37 PM

善悪



私は、貴方を殺します。
でも、それは。
穢れ切った世の中が吐き出す蠱毒に侵され、
私の眼の前で、藻掻き苦しむ貴方を、
助けてあげたい。只、それだけです。

本当は貴方を殺したくはないんです。
でも、貴方を救う手立ては、
腐臭漂う、この腐り切った世の中を、
破壊するしかないと知り。

世の中を壊すなんて。
それは、悪い事ですよね。
少なくとも貴方なら、そう言うでしょう。

ならば。
血反吐を吐き、苦しむ貴方を救う方法は…。
貴方をこの世から逃がしてあげる事。

私は貴方を殺します。

人を殺す事は悪い事だと、
貴方は私に教えてくれました。
でも。
きっと、貴方は。
私が貴方を殺める事を、
悪い事とは言わないでしょう。

大丈夫です。
私は。貴方の教えを受けて、
善悪の判る人間になったのですから。

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