霜月 朔(創作)

Open App

楽園



綺麗に飾り立てられた街。
馬車が走りやすい様に敷かれた石畳。
着飾った貴婦人達が行き交う、
華やかな大通り。

しかし。そんな華麗な街も、
路地一本隔てれば、
舗装もされない、でこぼこな細い道に、
吹けば飛ぶような、建物と言えない小さな小屋が、
ひしめき合う様に立ち並ぶ。
そんな狭く光も碌に射さない路上には、
痩せ細った人が、半ば倒れ込む様に座り込み、
垢に塗れ襤褸を纏った子供が、
今日を生きる為に、犯罪に手を染める。

見せ掛けの華やかな表通りも。
暗く汚れた裏通りも。
何一つ良い所なんて無い。
人の怨念や悪意が渦巻くだけの、
欲望の街。

そんな汚泥の中で、
溺れそうになりながら、
オレは必死に藻掻く。
そして、力尽き、
そのまま底へと沈んで…。

だけど。
闇に沈んだオレを、
誰かが、力尽くで光の元に引き摺り上げた。
…酷く強引に。
溺れたまま、闇に取り込まれる事を、
受け入れてしまったオレを、
陽のあたる場所に、連れ出したんだ。

オレは…死ねなかった。
なら。もう一度藻掻いて見ようかと思った。
…楽園を求めて。



4/30/2024, 2:58:16 PM