霜月 朔(創作)

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風に乗って


少し暖かくなってきたから、と、
仕事の合間に俺は、
部屋の窓を開けて、大きく息を吸う。
窓の外は、新緑が萌え、
疲れ切った俺の心が、
少しだけ軽くなった気がした。

耳を澄ますと、小鳥の鳴き声に混ざって、
風に乗って、微かな歌声が聞こえる。
きっと、あいつが、
掃除をしながら、歌っているのだろう。

恥ずかしがり屋のあいつは、
人前では歌わない。
一人で掃除をする時には、
こんなに愉しげに歌うのに。

風に乗ってやってきた、
あいつの本当の姿。飾らない歌声。
何時か俺の前で、歌って欲しい。
着飾らず、構えず。
自然体のあいつを見たいんだ。

窓から少しだけ顔を出し、
あいつへの想いを呟く。
面と向かっては、告げられない想いを。

俺の言葉が、風に乗って、
あいつの元に、届いてくれないだろうか。




4/29/2024, 3:06:13 PM