霜月 朔(創作)

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4/7/2024, 1:44:13 PM

沈む夕日


空が夕焼けに染まると、子供たちは家路を急ぐ。
きっと家では、母親が温かい夕食を作って、
待ってくれているのだろう。

でも。俺の家は。
父は外に女を作り、家に寄り付かず、
母はそれに絶望し、家庭を護る事を捨て、
俺と幼い妹の育児を放棄した…。
そんな家庭だったから、家に帰ったとて針の筵。
俺は妹と二人、息を潜め気配を殺し、
朝が来るのを待つしか無かった。

だから。
家に帰らねばならない時刻を告げる、
空を朱く染めながら沈む夕日は、
苦痛の始まりを意味するもので、
俺には、その緋色は地獄の業火の様にも見えた。

そして。時は流れ。
俺は大人になり、両親の呪縛から解き放たれた。
決して恵まれた生活ではないが、
沈む夕日に怯える事がなくなった。
そして…知った。
一日の終わりを告げる、西の空に沈む夕日は、
こんなにも切なく、美しかったのか、と。

何時か、沈む夕日を眺めながら。
お前にも、この事を話したい。
決して聞いていて楽しい話ではないが、
お前には、俺の全てを知って欲しい。
俺の弱い所も、醜い所も、足りない所も。
そして、その時は。
俺が見てきた、どんな沈む夕日よりも美しい、
その穏やかなサンセットオレンジの瞳で、
俺だけを見詰めていて欲しい。

4/6/2024, 2:09:37 PM

君の目を見つめると



俺を魅了して止まない君の瞳は、
高価な宝石よりも気高く、美しくて。
どんなに恋い焦がれても、
決して、手に出来ないもの。

君は、俺には余りに眩しいから、
俺は、君を真っ直ぐに見つめる事が出来なくて。
本当は、何時迄も君の目を見つめていたいのに、
俺は君から、そっと目を逸らしてしまうんだ。

それでも。
君に気付かれ無い様に、
そっと、君の目を見つめると。
時折、君の目に写る俺を見つけてしまい。
何故か気恥ずかしくなって、
俺は、思わず逃げ出したくなる。
だって。俺なんか、君には相応しくないから。

だけど。何時か。
俺が、君の隣に並ぶに値する人間になれたら、
その緋色の瞳で、俺だけを見つめて欲しい。


4/5/2024, 12:56:47 PM

星空の下で


人は死んだら、その魂は天に輝く星になる。
そんな伝承を、聞いた事があります。

でも、それが本当なら、
私が殺めてきた人々は、輝く星々となって、
毎夜毎夜、遠い空の上から、
私を怨みがましく見下ろしている…と言う事。

罪を重ねてきた私は、
陽の射す場所に居るに相応しくない人間だと、
陽の光を避ける様に、日陰を歩き、
ひっそりと生きて来ましたが、
数々の星の煌く、星空の下もまた、
私には相応しくない場所なのです。

太陽の元も星空の下も。
私が居てはいけない場所。
そんな、血に汚れた私でも、
生きる事を赦される場所は、
何処なのでしょうか…。

しかし。
こんな私に赦されるのであれば、
私は死した後、星となって、
天から、貴方を見守りたいのです。

星空の下で。
私は、密やかに願います。
…貴方の幸せを。

4/4/2024, 1:38:02 PM

それでいい


正直に言えば、色々と望む事はある。
お前には誰よりも俺を頼りにして欲しいし、
お前が困った時は、俺に相談して欲しい。
お前の一番の親友でありたいし、
切磋琢磨するライバルでもありたい。

…そして、何より。
お前には、俺だけを見ていて欲しい。

だが。
俺がお前を縛り付ける謂れはない。
それが分かって居るから、
俺は、自分の願望を押し殺す。

お前が俺の隣に居てくれる。
今の俺には、それでいい。
そう、自分に嘘を吐く。

そして、お前の隣で。
俺は今日も、事も無げに微笑むんだ。

4/3/2024, 2:22:43 PM

1つだけ


子供の頃、皆と星空を眺めた事がありました。
何時もなら、疾うに眠りについている時刻。
今日は特別だよ、と言われ、
外に出て、空を見上げました。

頭上には、満点の星。
今迄見た事の無い数の星が瞬いていました。
空に散りばめられた数多の星の美しさに、
私は少しだけ怖くなりました。
そんな闇夜に煌く星々の中で、
一際、輝く星がありました。
いつの間にか、その1つの星に、
私の心は、釘付けになりました。

…私にとっては『1つだけの星』。
部屋に戻っても。ベッドに潜り込んでも、
翌朝になっても。何日も経っても。
その『1つだけの星』は、
私の脳裏から消える事はありませんでした。

あの日から。
何れ程の月日が流れた事でしょうか。
私は、大人になり、忙しい日常に追われ、
夜空を見上げる余裕なんて、
すっかり無くなっていました。

日々に疲れ果て、久しぶりに見上げた星空。
でも、
どんなに星空の中を探しても、
キラキラと眩い星は沢山あるのに、
あの『1つだけの星』は、ありませんでした。

それでも。
私の心の中には、
あの幼い日に見付けた『1つだけの星』が、
輝いているのです。
それは、貴方との思い出であり、
貴方の面影であり、貴方の存在そのものです。

そう。
私の希望の星は…1つだけ。
見上げた星空に、『1つだけの星』が見えなくても、
私の希望の星は、心の中に輝いています。

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