霜月 朔(創作)

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1つだけ


子供の頃、皆と星空を眺めた事がありました。
何時もなら、疾うに眠りについている時刻。
今日は特別だよ、と言われ、
外に出て、空を見上げました。

頭上には、満点の星。
今迄見た事の無い数の星が瞬いていました。
空に散りばめられた数多の星の美しさに、
私は少しだけ怖くなりました。
そんな闇夜に煌く星々の中で、
一際、輝く星がありました。
いつの間にか、その1つの星に、
私の心は、釘付けになりました。

…私にとっては『1つだけの星』。
部屋に戻っても。ベッドに潜り込んでも、
翌朝になっても。何日も経っても。
その『1つだけの星』は、
私の脳裏から消える事はありませんでした。

あの日から。
何れ程の月日が流れた事でしょうか。
私は、大人になり、忙しい日常に追われ、
夜空を見上げる余裕なんて、
すっかり無くなっていました。

日々に疲れ果て、久しぶりに見上げた星空。
でも、
どんなに星空の中を探しても、
キラキラと眩い星は沢山あるのに、
あの『1つだけの星』は、ありませんでした。

それでも。
私の心の中には、
あの幼い日に見付けた『1つだけの星』が、
輝いているのです。
それは、貴方との思い出であり、
貴方の面影であり、貴方の存在そのものです。

そう。
私の希望の星は…1つだけ。
見上げた星空に、『1つだけの星』が見えなくても、
私の希望の星は、心の中に輝いています。

4/3/2024, 2:22:43 PM