猫とモカチーノ

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7/18/2024, 11:42:29 PM

「外国人」

小さい頃は、名前で呼ばれるよりも、そうやって呼ばれることの方が多かった。

金色のウェーブのかかった髪。
青みがかった瞳。

クラスのみんなは髪も瞳も真っ黒だから、私だけ浮いていた。

まるで、みにくいアヒルの子の逆バージョン。

「あの子は日本人じゃないから」
「お父さんとお母さんも外国人だよ」

みんなから向けられる好奇の目は、なんだか仲間はずれにされているみたいに見えて、居心地が悪かった。

小学校を卒業してからは、直接そういうことは言われなくなったけれど、やっぱり珍しいものを見る目を変わらず向けられた。

中学生は特に"周りと違う"ことに敏感だから、余計に目立っていたと思う。

髪を染めそうかとも思ったけれど、母に止められた。

「お姫様みたいに可愛いんだから」と言うけれど、私がなりたいのはお姫様じゃなくて、大多数みんなと同じであることなのに。

そんな学生時代を過ごしてきた私も、なんとか就職して、しばらくして恋人ができた。

同じ会社の同期の彼は、出会ったその日に「綺麗ですね」なんてナンパじみた言葉をかけてきて、最初こそ警戒していたものの、なんだかんだ気があって打ち解けた。

「こんな見た目だけど、いいの?みんなと違うんだよ」

付き合ってすぐのころ、そんなことを聞いた時があった。
彼は不思議そうに「何がダメなの?」と言った。

「その髪も瞳も、君だけの魅力だから、俺は好き」

そんな彼のまっすぐな言葉に涙が溢れた。
彼は、私だけ違うんじゃなくて、私だけの魅力として捉えてくれる人なんだ。

今もまだ少し、見た目を気にしてしまうことはあるけれど、その度に彼の言葉を思い出す。

みんなと違う、私だけの個性を大切にしてみてもいいかなと思った。


お題『私だけ』

7/18/2024, 1:35:25 AM

「おめでとう!」

飛び交う祝福の声に、ヒラヒラ宙と舞う白い花弁。

たくさんの人に囲まれて幸せそうに笑う彼女は、お世辞抜きで、今この世で一番美しいと思う。

20年前「大きくなったら世界一のお嫁さんにしてね?」と彼女は言った。
俺も乗り気で、お小遣いでおもちゃの指輪を買って、結婚式ごっこまでして。

小学校、中学校、高校、大学。
就職してから定期的に連絡を取り合うほど、俺たちは仲が良かった。

ある日、彼女から届いた一枚の葉書には、彼女に似つかわしくない、丁寧な文面で結婚式の案内が書かれていた。

彼女の名前の隣には、知らない男の名前。

別に、子どもの頃の約束を本気にしていたわけではなかったけれど「取られた」という気持ちが脳を駆け巡った。

とはいえ、欠席することもできなくて、彼女の結婚式で友人席に座ることになった。

「綺麗でしょ?」

披露宴の時、そういたずらっぽく笑って、俺にウエディングドレスを自慢しに来た彼女は、きっとあの時の約束なんて覚えていないのだろう。

幸せそうに前を向いて歩む新郎新婦に反して、いつまでも遠い日の記憶に縋っている自分が、なんだか子どもみたいで嫌だった。


お題『遠い日の記憶』

7/17/2024, 8:57:47 AM

真っ赤な赤い夕日を見るたびに、彼とこの夕日を見れたら良いのになと思う。

赤い髪の彼はきっと、夕日がよく似合うだろう。

想像するだけで涙が出そうになるくらい、きっと美しい景色なのだろう。

……あぁ、なんで叶わないんだろうな。


お題『空を見上げて心に浮かんだこと』

7/16/2024, 9:56:14 AM

昔は、ただ描くのが楽しくて絵を描いていた。

クラスのみんなが「上手だね」と褒めてくれて、自分は絵が上手なんだと錯覚して。

高学年になって人前で絵が描きづらい環境になっても、陰で描き続けた。

描くのが楽しくて、アイデアがどんどん溢れてくる。
自分は将来絵を描く仕事に就くんだと思っていた。

でも、高校に入った時、ようやく自分は大してすごくないのだと気づいた。

ネットには絵が上手い人で溢れていた。
上手いだけじゃない、みんな自分の世界観を持っていて魅了された。

凄いなと思うのと同時に、私より凄い人なんて五万といて、同級生にすら敵わない私なんて……と思うようになった。

絵を見るのも描くのも好きだけれど、自分の描きたいものが上手く描けなくて、次第には何を描きたいのかも分からなくなって

いつしか絵を描くのが辛くなった。
それにつれて、絵を描く頻度も減っていった。

「もう終わりにしよう」

そう思った時、とある映画を見ることになった。
その映画には、私のように自分の作品に悩みを抱える子がいて、それでも負けずに立ち上がる姿に心を打たれた。

1日のうちの、ほんの1時間少しの事だったけれど、私はその映画を見て、もう一度、絵が描きたいと思った。

映画を見た帰り、スケッチブックと絵の勉強本を買った。

久しぶりにペンを握ったから、少し手に違和感を感じたけれど、このグッとペンを握る感覚がなんだか懐かしい。

久々に描く絵は目も当てられないような不格好なものだったけれど、やっぱり描くのが楽しいなと思えた。

終わりにするのはいつでもできし、もう少し、続けてみようかな。


お題『終わりにしよう』

7/15/2024, 1:54:29 AM

手を取り合うって、大人になる程難しくなると思う。

私は新米保育士。
子どもが好きで、ずっと保育士になりたいと思って、ようやく就いた職だったけれど、現実は厳しかった。

子どもたちを見るのは大変で、保護者からも理不尽に責められて、残業なんて当たり前。
頼りたい上司も忙しさでピリピリしていて、兎に角八方塞がりだった。

「困った時は助け合いましょう!」と、就任してすぐの時に園長先生に言われたけれど、とてもそんな雰囲気ではなかった。

(先輩たちも大変そうだし、もっと助け合えたらいいのにな……)

そう思っていても新米の私は何も言えなかった。

そうやってバタバタしているうちに、気づけば運動会のシーズンになっていた。

子どもたちはやる気に満ち溢れていて、楽しい思い出になるよう、精一杯サポートしようと思った。

うちの桜組の子たちは走るのが大好きで、特にかけっこに気合を入れているみたいだった。

「いちについて〜、よーいどん!」

合図とともに子どもたちが走り出す。
何人か走ったところで、隣の桃組の子が途中で転んでしまった。

(あっ!助けに行かないと……!)

そう思って駆け寄ろうとすると、先を走っていたうちの組のちなつちゃんが、コケたこのところに戻ってきて「大丈夫?」と手を取った。

「一緒に走ろう?」

そんなちなつちゃんを見て、同じく走っていた他の組の子たちも駆け寄ってくる。

子どもたちは自分の順位も気にせずに、みんなで手を取り合ってゴールテープを切った。

そんな姿に涙を流す保護者の方もいて、みんながゴールすると、温かな拍手が巻き起こった。

(やっぱり、子どもはすごいな……)

私たち大人が子どもたちに教えることはたくさんあるけど、それ以上に、子どもたちから学ぶこともたくさんあると、この仕事をしていると強く実感する。

私たち大人も、もっと手を取り合っていかないとな。
そう思わされた出来事だった。


お題『手を取り合って』

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