猫とモカチーノ

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手を取り合うって、大人になる程難しくなると思う。

私は新米保育士。
子どもが好きで、ずっと保育士になりたいと思って、ようやく就いた職だったけれど、現実は厳しかった。

子どもたちを見るのは大変で、保護者からも理不尽に責められて、残業なんて当たり前。
頼りたい上司も忙しさでピリピリしていて、兎に角八方塞がりだった。

「困った時は助け合いましょう!」と、就任してすぐの時に園長先生に言われたけれど、とてもそんな雰囲気ではなかった。

(先輩たちも大変そうだし、もっと助け合えたらいいのにな……)

そう思っていても新米の私は何も言えなかった。

そうやってバタバタしているうちに、気づけば運動会のシーズンになっていた。

子どもたちはやる気に満ち溢れていて、楽しい思い出になるよう、精一杯サポートしようと思った。

うちの桜組の子たちは走るのが大好きで、特にかけっこに気合を入れているみたいだった。

「いちについて〜、よーいどん!」

合図とともに子どもたちが走り出す。
何人か走ったところで、隣の桃組の子が途中で転んでしまった。

(あっ!助けに行かないと……!)

そう思って駆け寄ろうとすると、先を走っていたうちの組のちなつちゃんが、コケたこのところに戻ってきて「大丈夫?」と手を取った。

「一緒に走ろう?」

そんなちなつちゃんを見て、同じく走っていた他の組の子たちも駆け寄ってくる。

子どもたちは自分の順位も気にせずに、みんなで手を取り合ってゴールテープを切った。

そんな姿に涙を流す保護者の方もいて、みんながゴールすると、温かな拍手が巻き起こった。

(やっぱり、子どもはすごいな……)

私たち大人が子どもたちに教えることはたくさんあるけど、それ以上に、子どもたちから学ぶこともたくさんあると、この仕事をしていると強く実感する。

私たち大人も、もっと手を取り合っていかないとな。
そう思わされた出来事だった。


お題『手を取り合って』

7/15/2024, 1:54:29 AM