「おめでとう!」
飛び交う祝福の声に、ヒラヒラ宙と舞う白い花弁。
たくさんの人に囲まれて幸せそうに笑う彼女は、お世辞抜きで、今この世で一番美しいと思う。
20年前「大きくなったら世界一のお嫁さんにしてね?」と彼女は言った。
俺も乗り気で、お小遣いでおもちゃの指輪を買って、結婚式ごっこまでして。
小学校、中学校、高校、大学。
就職してから定期的に連絡を取り合うほど、俺たちは仲が良かった。
ある日、彼女から届いた一枚の葉書には、彼女に似つかわしくない、丁寧な文面で結婚式の案内が書かれていた。
彼女の名前の隣には、知らない男の名前。
別に、子どもの頃の約束を本気にしていたわけではなかったけれど「取られた」という気持ちが脳を駆け巡った。
とはいえ、欠席することもできなくて、彼女の結婚式で友人席に座ることになった。
「綺麗でしょ?」
披露宴の時、そういたずらっぽく笑って、俺にウエディングドレスを自慢しに来た彼女は、きっとあの時の約束なんて覚えていないのだろう。
幸せそうに前を向いて歩む新郎新婦に反して、いつまでも遠い日の記憶に縋っている自分が、なんだか子どもみたいで嫌だった。
お題『遠い日の記憶』
7/18/2024, 1:35:25 AM