短冊に書いた願い事は、叶うものだと思っていた。
「お金持ちになりたい」
「あのおもちゃが欲しい」
「〇〇くんと仲良くなれますように」
幼い私は、毎年、そんな子どもらしい願い事をしていた。
そんな願い事の中、小学校2年生に書いた願いは、今でも覚えている。
黒板に掲示された笹のイラストに、それぞれ短冊を貼る時間があった。
そんな、みんなの目につくところで、当時の私は
「パパとママが仲直りできますように」
と言う願いを、無邪気にも掲げたのだ。
ちょうど、数ヶ月前に両親が離婚した時だった。
幼い私には、離婚の意味がイマイチ分かっていなかった。
ただの喧嘩で、また仲直りすれば一緒にいられる。
そう思うようにしていた。
その短冊を黒板に持って行った時、先生が困った顔をしていたのを覚えている。
それに反して私はケロッとして、短冊が願いを叶えてくれるんだと信じて疑わなかった。
それから何年、何ヶ月経ってもお父さんとお母さんの仲は戻ることがなくて、私は、七夕なんて信じなくなった。
お題『七夕』
もう顔も名前も思い出せないけど、10年前の夏休みに出会った、とある友だちとの思い出がある。
歳も知らないし、どこに住んでるかも知らない。
でもあの子は、毎週金曜日になると近所の公園に現れた。
他の曜日に行ってもいない、金曜日だけ。
「家は遠いけど、おばあちゃん家が近いんだ」
と言っていた気がする。
最初は確か僕から声をかけたんだ。
砂場の隅っこでせっせと山を作っている、見慣れないその子を遊びに誘った。
最初こそ戸惑っていたけど、僕たちはすぐに仲良しになって、金曜日が楽しみになっていた。
当時の僕らには連絡手段がなかったけれど、毎週金曜日、必ず公園に集合して遊ぶようになった。
でも一度だけ、その子が来ない日があった。
どうしたんだろうと思いながらも、家も連絡先も知らないからどうすることもできなかった。
その日はいつも帰る時間まで待ってみたけれど、結局その子は来なかった。
「もう会えないのかな」なんて子ども心に思っていたけれど、次の週の金曜日、友だちはいつも通り公園にいた。
僕の姿を見るなり友だちは深々と頭を下げて
「先週は来れなくてごめんね」
と言った。
話を聞くと、先週、友だちのおばあちゃんが亡くなったらしく、公園に来ることができなかったという。
「それでね、おばあちゃん家に来ることももうなくなっちゃうから。だから、今日でお別れなんだ」
「お別れ……」
突然告げられた別れ。
寂しいけれど幼い僕らにはどうすることもできなくて、その時の僕に出来たことといえば、一緒に遊べる最後の日を全力で楽しむことだけだった。
公園の遊具全てで遊び尽くして、お小遣いで買ったジュースで乾杯して、楽しかったのを覚えている。
でも、楽しい時間はあっという間で、夕方の音楽が流れ初めて、別れの時を知らされる。
「楽しかったよ。今までありがとう」
友だちは嬉しそうに笑っていた。
「……また、会えるといいね」
「うん!」
僕は涙を堪えながら、彼の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。
その後も、その公園には通ってみたけれど、やはりあの子に会えることはなかった。
それでも、公園を横切るたび、友だち楽しかった記憶が蘇ってくるんだ。
お題『友だちの思い出』
バイト終わり、家に帰って車から降りた時に眺める星空が好きだ。
空に広がる星々を見ていると、まるで世界に自分だけしか居ないように感じるだ。
特に冬は一段と綺麗で、1日の疲労が吹っ飛ぶくらい心が洗われる。
人に話してもあんまり分かってもらえないけど。
就職しても、歳をとっても、星空を眺めて心を落ち着かせる時間は大事にしたいなと思う。
お題『星空』
「ねぇ、ここの神社有名なところなんだって〜!寄ってみようよ!」
「いいね!行ってみようー!」
友達3人組の小旅行。
行きたいところは大まかに決めてあったけれど、こんなふうにその場その場で気になるところに立ち寄っている。
私たちらしい、そんな旅路が好きだ。
「ここって何の神様なの?」
「うーん、お守りのラインナップ的に、学問とか安産とかかな?」
「曖昧じゃん!何お願いしよう」
「神様関係なしに、好きなことお願いすればいいんじゃない?」
「たしかに!」
「5円玉がいいんだよ〜」と友達が言うので、みんなで5円片手にお賽銭箱の前に立つ。
端の方に書いてある参拝の作法をチラッと見ながら、それらしくお願いごとをする。
(私のお願いごとは……)
「……よしっ!そろそろ行こっか!」
友達の1人がそう切り出したのを合図に、私たちは参拝を終えた。
「みんな何お願いしたの?」
「うーん、内緒!そういうあんたはどうなのさ」
「私も内緒!こういうのは言わない方が叶うって言うし」
「じゃあ何で聞いたの!?」
仲良しでもみんな、お互い何をお願いしたのかあまり検討がつかなかった。
私たちのお願いごとは、神様だけが知っている。
お題『神様だけが知っている』
「わーっ!懐かしいなぁ」
大学生1年生夏休み。
私は、バイトで貯めたお金を使って、小学生の時に住んでいた故郷に訪れていた。
今住んでいる都市とは違い、故郷は所謂田舎っぽい町だったけれど、自然あふれるこの町が私は大好きだった。
ずっと遊びに行きたいと思っていたけれど、母は乗り気じゃなかったし、自分の足でもなかなか来れなかったから、やっとの思いでの里帰りだ。
「放課後はいつもここで集まってたなぁ」
訪れたのは小さな公園だった。
あの頃遊んでいたお気に入り遊具には、今では使用禁止の張り紙が貼られていて、なんだか寂しい気持ちになった。
小学生の時は、放課後はここに集まって、友達とゲームをしたりボール遊びをしたりして、毎日日が暮れるまで遊んでいた。
「あの頃は楽しかったなぁ、みんな、今頃どうしているだろう」
あの頃はまだスマホよりもDS主体だったので、結局、引っ越しを機に友達とは疎遠になってしまった。
「……そろそろ帰ろうかな。あっ、あの駄菓子屋さんまだやってるかな?帰りに寄っちゃお!」
あの駄菓子屋さんとは、公園の近くにあった駄菓子屋さんのこと。
年老いたおばあちゃんが1人で経営していて、遊びのお供に友達とよくお菓子を買いに行っていた。
たまにお菓子をおまけしてくる、優しいおばあちゃんだったのをよく覚えている。
「この道の先、たしか、あの角を曲がれば……!」
角を曲がれば懐かしい駄菓子屋さん
が、あるはずだった。
駄菓子屋さんのあった場所は、建物が取り壊されていて、更地になっていた。
「ここも変わっちゃったんだ……」
時の流れは残酷だ。
あの頃遊んだ遊具も、友達も、駄菓子屋さんも、私の記憶の中に確かにあるのにもう届かない。
またあの頃に戻れたらななんて、今でも思ってしまう私は、記憶に取り残されたままの子どもなんだろうか。
お題『この道の先に』