俺は勇者。
仲間を集めて旅をして、ドラゴンと戦って、人々を命懸けで守って。
生まれた時にはそれが当たり前で、毎日毎日、世のため人のために戦ってきた。
「勇者様万歳!」
「ほんと、勇者様がいてくれて助かるわぁ」
感謝されて悪い気はしない。
人を助けて感謝される。それが勇者だから。
でも、これが俺の本当にやりたいことなのだろうか。
俺は、勇者という運命から、一生逃れられないのだろうか。
ある日、仲間の戦士に相談してみた。
「なぁ、今日だけ勇者と戦士、交換しない?」
「はぁ?何言ってんだよ。変なキノコでも食った?勇者はお前しかいないだろ」
「勇者も戦士も、戦うことには変わりないからさ、やろうと思えばできなくもないんじゃないか?」
「いやぁ、無理。俺にお前の代わりは務まらないって。これからも頼りにしてるぜ、“勇者様“」
そうか、俺はこの先もずっと勇者なんだ。
それ以外の何にもなれない。
「勇者様がまた村を救ってくれた!」
「勇者様に感謝を!」
人々の歓声が、感謝の言葉が今日も聞こえる。
今日も“勇者な自分“に疑問を抱きながら、逃れられない現実を生きる。
お題『逃れられない』
「おはよう」で始まって「また明日」で終わる。
私たちの1日は、毎日そうだった。
「蒼太おはよ!またギリギリじゃん」
「おはよ。いやぁ、道でおばあちゃん助けてたら遅くなっちゃってさ」
「それ毎週言ってるじゃん!!」
蒼太は保育園の頃からの幼なじみで、小学校、中学校、高校と毎日のようにくだらない話をしていた。
授業中に居眠りして怒られている姿も。
4限目のチャイムと同時に購買に走る姿も。
帰り道、近所の子どもたちと服がドロドロになるまで走り回る姿も。
いつも側で見てきた。
でも、近すぎるのも良くないみたいで。
毎日一緒にいるのに、この気持ちだけはずっと言えずにいる。
「じゃあ、また明日」
「おう!また明日」
今日はダメでもまた明日。次こそは。明日こそは。
そんなふうに、先延ばしにしていたから、神様が意地悪をしたのかもしれない。
……その日、蒼太に明日は来なかった。
お題『また明日』
人間には、それぞれ色がある。
クラスで人気者のあの子はキラキラ輝く金色。
陸上部のエースの彼は赤色。
いじめっ子の彼は紫色。
いつも花の世話をしている彼女は白色。
みんな色とりどりで、それぞ個性がある。
それなのに僕には色がない。
ここにいるのにいないみたいで。
みんなのような色で例えるなら"透明"ってやつだ。
自分だけの色に憧れる透明な人間。
「ねぇ、花が好きなの?」
「えっ」
どうやら、そんな透明な人間に興味を持つ物好きもいたらしい。
「よくこの花を眺めているでしょう?だから、好きなのかなって」
「別に、好きって訳じゃない」
「えー、そうなんだ。毎日のように熱心な目で見てるから、てっきり好きなのかと思ってたよ」
そんなに熱心に見ていたのだろうか。
たまたま自分の席が窓際で、たまたまそこに花が飾られていただけ。
「そんなに見てた?」と聞くと、彼女は「見てたよー」と、花が咲くような笑顔を見せる。
そんな彼女を見て、やっと気づく。
なぜ僕は、毎日無意識に花を見つめていたのか。
「……確かに、花が好きって訳じゃないけど」
「けど?」
「なんか、色が綺麗だなと思って。無意識に見ちゃってたのかもしれない」
「ふふっ、なにそれ」
人間にはそれぞれ色がある。
ただ、その色はずっと同じではないらしい。
白色だと思っていた彼女が桃色に変わったように。
僕もいつか、透明じゃなくなる時が来るのかもしれない。
お題『透明』
ずっと追い求めている、あの人の姿。
まっすぐで、自分を貫けて、強くてかっこよくて、みんなから尊敬される優しい人。
どんな逆境にも負けずに、ひたむきに努力して、周りからの評価すらも覆しちゃうすごい人。
そんなすごい人なのに、どこか抜けてるところもあって。
実は、ちょっとの失敗でも小さくなって落ち込んじゃうところもあったり。
本当は、強いふりをするのが上手なだけで、私と同じ弱さも持っている。
そんな素敵なあの人に負けないくらい、強くてまっすぐになること。
それが、遠い世界に住む私にできる、唯一のこと。
お題『理想のあなた』
「あれ、今日は君たちだけなのかな?」
「ニャー」
3ヶ月ほど前、近所を散歩してる際に出会った野良猫の家族。
黒猫のお父さんと、雉虎の三兄弟。
初めこそ警戒されていたものの、ほぼ毎日会っていたこともあって、最近は撫でさせてくれるくらいには仲良くなれていた。
今日も会えるかなと、いつも彼らがいる池の麓に来てみると、いつもいるはずの黒猫と末っ子猫の姿が見えない。
「お父さんと妹ちゃんはどこかに出かけているのかな?」
「ニャー」
長男猫と次男猫に構ってもらいながら、しばらく待ってみたけれど、結局その日は黒猫と末っ子猫には会えなかった。
会いに行ってもいないことは、これが初めてではなかった。
野良猫なのもあって、タイミングが合わないと会えない日もある。
今日はたまたまタイミングが悪かったんだ。
そう自分に強く言い聞かせたが、心の奥底に小さな不安が残った。
それから、何日経っても、季節が変わっても、黒猫と末っ子猫に会えることはなかった。
お題『突然の別れ』