「わあ、見て見て!あそこ、イネがいっぱいある!」
少し日も傾いてきた頃、私とライトはきれいなイネ畑を見つけ、ライトは少し……いや、かなりはしゃいだ様子で話しかけてきた。
「あれはススキね」
「ススキ?」
「そ。イネの仲間よ」
この世界で植物の種類などに疎いところを見ると、やはり彼女は世間知らずなのだなと感じる。
「初めて見るの?」
「うん!家の近くで普通のイネは育ててたんだけど……ねえ、ススキにも花言葉はあるの?」
「あるわよ」
「どんなどんな?」
「……『活力』とか『精力』ね」
私はグイグイと質問してくるライトに無難な答えを返した。
「そーなんだー。やっぱりロコって物知りだね!」
それでも彼女は満足そうに私の話しを聞いていた。
「それより、早く行きましょ」
「あ、はーい」
私が急かすと少し名残惜しそうにしながらも、元の道を歩き始める。
「………………」
……実はススキにはもう一つ、私が意図的に言わなかった花言葉があった。
だって、それは余りにも私たちには……いや、私にはふさわしくない花言葉だったから。
(偽りだらけの私には………)
ススキ ・・・・・
花言葉 ・活力・精力・心が通じる
ーススキー
ロコ・ローズ
一番意味がないじゃんって感じることは生きること
だって自分が漫画の主人公になれるわけでもないし、歴史上の人物みたいに凄いことをできるわけでもない
むしろ辛いことばかりで死にたくなることばかりだ
でも私は美味しいご飯は食べたいし、歌も歌っていたい。
生きることに意味なんて無いと思う
ーでも、とってもくだらない、生きたい理由ならある
今はきっと、それだけで十分だ
ー意味がないことー
「ロコのこの世界に来て良かったなって思う事はなんですか?」
「……そんなこと聞いてどうするの」
「あ、いや、特に深い意味があるわけでは無いんですが……」
つい聞いてしまった。少し強めに感じる相槌に萎縮してしまう。
・・
私とロコか同じと知って、つい気になったこと。
「……まず、お母様がいた事」
「…!」
「あと、比較的魔力量に恵まれてたこと」
ロコはぽつぽつと、私の質問に答え始めてくれた。
「それと、家を出て旅に出た後、ライトやあなた達と出会えたこと。……前は友達なんて………」
「…そうなんですか」
その先に言葉は紡がれなかったが、それ以上追求する気にもなれずただ小さく相槌を打った。
「……あなたはどうなの」
「え?……私は、」
・・・・
「私と同じ、なんでしょ」
「………………………はい」
突然の返してに驚いてしまったが、ロコの言葉を聞き確信した気がした。
(ああ、本当に)
・・
「わたしとあなたは、同じなんですね」
ーわたしとあなたー
リース・リリィーナ
雨はあんまり好きじゃない
視界が悪くなるから戦いづらいし、音も聞き取りにくくなる。
何より猫の体質で濡れるのが好きじゃなかった。
でもでも、やっぱり旅をするとなると雨に打たれるのは避けられないようだった。
「何してるの、早く次の村に行かないと、もっと本降りになってくるわよ」
雨を避けるために木の下に隠れていた私にロコが話しかけてくる。
「………むぅ、だって雨って冷たいし、痛いし……」
「何言ってるのよ。こんなの痛くないわ。むしろ本降りになったらもっと大変よ。」
「………」
それでも渋っていると、ロコが一つため息をついた後、私の手を掴んで走り始めた。
「ふえ!?」
「さっさと行くわよ」
突然のことで驚きつつ、私はロコと一緒に全身で雨を浴びた。
でもそれは昔の雨よりもよっぽど優しい雨だった。
(昔の雨とは大違い)
そもそも昔私が降られた雨はほぼ嵐の様な日だったし、痛くて当たり前だったのかもしれないが。
なんだか、それだけではない気がした。
「……ロコ」
「何?」
「……ううん、なんでもない♪」
「……そう」
柔らかい雨に包まれながら、私たちは次の村までの道を走った。
ー柔らかい雨ー
ライト・オーサム
最初はただただ鬱陶しいとしか思っていなかった。
整った容姿。もの静かだが欠けていないコミュ力。転校生というシチュエーション。まるで漫画の主人公だ。
お れ
人格破綻者なんかとはまるで違う。
それでもそいつはあの日から毎日のようにおれに話しかけてきた。
空き教室でおれの歌を聴きに、もしくは歌いに来たり、体育の授業でも必ず一人余っているおれのところへ来て、
「せっかくだし、一緒ならない?」
なんて決まったように言う。人気者のお前のことだ、引く手あまただろうに。
ただ、おれは彼女と仲良くしようなんてこれっぽっちも思っていなかった。
人は嘘をつく生き物だと知っていたから。
人は人を裏切る生き物だと知っていたから。
どうせコイツもすぐ離れていく。
「ねえ、それはなんて曲なの?」
“信じる”なんて無駄なんだから仲良くなる必要も無い。
「卵焼き、作ってきたの。一緒に食べましょ?……え?……バレなければオッケーよ」
全部嘘。なにも信じない。
「昨日の授業よく分からなくて、教えてほしいの………大丈夫よ。お菓子は持ってきたから」
なにも………………
「私は変にもごもごしている渡辺君……隣の席の彼より、主張がハッキリしてる君の方が好きよ」
………………彼女はとてもマイペースなやつだった。
だから無愛想なおれのことも、ものともしなかったのかもしれない。
助けを求めることも、誰かを信じることも、期待を抱くことも、全て無駄だと思っていた。
だか、彼女はそんなおれの閉じこもっていた世界を少しずつこじ開けてきた。
そこから差し込んでくる一筋の光は、おれには眩しすぎて、触れたら自分が焼かれてしまうのではないかという恐怖を与えてきた。
しかし、それと同時に“触れたい”という気持ちも湧き上がってきた。あの暖かい光に。
もしかしたらおれは……本当は………
“ーーーーーー”
………まあ結構、おれはその答えを出すことも、彼女にお礼を言うこともできずにこの世から去ることになってしまったが………
いま
あの光の答えを“私”は現在も探している。
〜一筋の光〜
???