頭のなかでは言葉が渦巻いていて、言いたいことがいくらでもあったのだ。
なのに、相手を傷つけないようにとか、正しく伝えようとか、自分の認識が間違っているかもしれないとか、そういうことを考えてゆくと、大量の言葉からどんどんと削ぎ落とされていって、気がつけば何も言えなくなっている。
黙ったまま、恨めしげに見つめることしかできない。
何か話さなければ伝わらないのに、削ってしまった言葉はもう戻ってこないのだった。
あなたは怪訝そうな顔をしてる。
#届かぬ思い
その人は自分にとって長いこと絶対であって、かれの言葉を信じ、かれの後ろを拝して歩くことがすべてだった。そう思うことで自分がなにか大きくつらいものから解放されて、しあわせになれるような気がしたのだった。それが間違いであったことに気づいた時にはもう遅かった。かれに恥をかかせたと思った。あるいはもっとひどかった。当たり前の事実として、かれはただの人間だったから全知全能ではあり得ず、自分のどうしようもない失敗を掬い上げて取り返しのつくようにすることはできなかったのである。
報いる術を知らぬまま、前を向いてももうそこには誰もいない。
#神様へ
電線の上にカラスが止まっていた。
濃く青い空に、黒い姿が映える。
道路にはまだ雪が残り、息を吐くと白く煙る。
天高く馬肥ゆる秋などという。
秋で相当高いのだから、冬はもっと高い。
春が近づいていても、この地方ではまだ高い。
空気は冷たく澄んでいて耳が痛くなるほどだ。
道には車もなく、静かだった。
考え事には打ってつけの静けさ。
青い空に、寒さのなかに、なにかの答えを見つけてしまいそうになる。
それが嫌で、私は首を振った。
カラスは飛び立って、遠くどこかへ。
家まではまだ遠い。
#快晴
愛するひとを想う
祈りを投げかける
船を漕いでゆく
足を踏み出す
決意をする
一人泣く
あなた
#遠くの空へ
少しずつ日が長くなって、
夕方が少し長くなって、
一緒にいられる時間が少しだけ増えて、
どこかから美味しそうな匂いがする住宅街の角で、
ふたり立ち止まって話していた。
暗くなっていくのをチラチラと気にしながら、
赤が青に変わるのを惜しんで、
お腹空いたねなんて言いながら、
どちらも別れを言い出しかねていたんだ。
#沈む夕日