その価値がないと言われても、
値札をつけるのはあなたではなく私なのだが、
あなたはひどく不服そうな顔で、
あるいはひどく傷ついたような顔でいる。
#優しくしないで
「とは?」
「……とは、と言われましても」
「こう言うのはだな、定義をまず決めるのが大事だよ。最初にすり合わせを怠ると、同じ話をしているのにもかかわらずどんどんずれていってしまうのだ。そうしてこう思う……『あいつはバカのわからずやだ』と」
「ええと、でも定義つってもなあ。理由?……なぜ生きるのか?」
「どうして生きることを続けようと思うのか。私個人の考えを聞きたいと言うことかね」
「そんな感じになりますかね」
「ならそうだな、この瞬間は辛くないからかな」
「辛い時は?」
「その瞬間が過ぎ去ることを信じていれば、生きようと思える。辛い時間が死ぬまでは続く……と、思った時は、生きる理由があやふやになる」
「なんか違う気がするなあ」
「なんかとはなんだ」
#生きる意味
野良猫に餌をあげる
他人の傘を持ち帰る
野にある花を摘む
車が来ていない時に赤信号を渡る
蟻を潰す
電車で化粧を直す
メダカを川に流す
教室の掃除をする
泣いている子供を宥めて、お菓子を買ってあげる
霜柱を踏む
河原を歩く
歩きながらスマートフォンを眺める
自転車を漕いで歩道を走る
#善悪
「まずさあ、空を見上げないよねえ。
スマホ? いやいや、歩きスマホなんてしないよ。危ないからさあ。
でも、仕事終えたあとの帰り道って、なんか空を見上げる気がしなくない? ああ、駅が地下鉄なのもあるかもなあ。入り口までずっと、なんか地面を見ながら歩いちゃったりなんかしてさあ。
疲れて上見る気になれないのかなあ。本当にやだよねえ。残業よくない。
……あ〜、でも、会社帰りに空見上げたな〜、みたいなこと、一回だけあったかなあ。
流れ星は見てない。だって、朝だったんだもん。
そう、泊まり込み。朝日が登ってさあ、朝焼けがそりゃあ綺麗で、なんだか泣けてきて……さわやかな気持ちになっちゃってさあ。
って、話ぜんぜん変わっちゃった。やっぱ仕事やめようかなあ。流れ星見たら、私の代わりに願ってくれる? なんて、人の一回分のお願い取ろうとするなんて図々しっか、あはは」
#流れ星に願いを
食費は折半。
料理は俺がする(なにせこの男はコンロの付け方も知らないので)が、洗い物は手伝うこと。
洗濯と掃除はやる日を決めて二人で手分け。
服はワードローブをひとつ設置してやるから、できるだけここから溢れないようにしろ。
「……でもそもそも、なんでお前は俺の家に居ついてるんだよ」
「ここ、駅から近くて楽だから……」
「そりゃそうだけど」
「そりゃそうでしょう」
そう言って、家主が朝から出かけるというのに、1コマ目に講義を入れていないこの男は悠々とベッドで寝ている。
#ルール