すれ違う瞳
「……」
ファミレスで相席になったのが、まさか君だとは。
静かすぎる空間。
テーブルに並ぶ、口のついていない料理。
君の料理だけが減っていく。
焦る心。それとは反対に、なにも動かない口。
立ち去ろうとする君に声を掛けた。
「なに?」
久々に合った目線。気づいていた左手のそれ。
君の幸せに満ち足りた瞳には、俺はどう映ってる?
「…じゃあな」「バイバイ」
すれ違う瞳。二度と彼女と合うことはなかった。
ふとした瞬間
いつもかわいい自慢の彼女。
あるとき不意に、
無邪気で愛おしい姿からは想像できない、
美しい女神のような人がそこにいる。
同じ笑顔なのに、こんなにも目が逸らせない。
スマホをポケットから出すこともできずに
ただただ見惚れる。
誰にも見せたくない。だけど、見せつけてやりたい。
俺の宝を。
遠い約束
「わらわをどこかへ連れてゆけ」
いつかの日に交わした約束事。
気が強く、それでいて寂しがり屋なお嬢様。
彼女はいつも孤独だった。
星空が美しい深夜。
窓辺から外を眺めている彼女は、こちらを向かない。
「遅くなり、申し訳ありません」
そう言うと、彼女は言った。
「てっきり忘れていたのかと思っていた。よく来たな」
月明かりに照らされた女性はあの頃とは違う。
ただ、声でわかってしまうのに、
泣き顔を必死に隠そうとするのは、あのお嬢様だ。
「行きましょう。お嬢様」
「…ああ」
俺の毛並みに彼女の白い肌が重なる。
唯一俺を受け入れてくれたお嬢様のためなら、
俺は何だってする。
好きだよ
俺には、恥ずかしくて言えないこの言葉。
彼女に言わせてばかりだ。
「言ってよ〜」
駄々っ子にさせてしまうこともある。
髪、声、笑顔、そして何より
ずっと側にいてくれるところ。
全てが愛おしくてたまらない。
「……す、きだ…」
俺の顔はどんな風になってた?
「遅いって…」
きっと君と同じくらい赤かったんだろうな。
手を繋いで
手袋をしないでほしい。
それがたった一つの約束だった。
毎年冬になると、
君の手は氷のように冷たくなる。
たとえ冷たくても、手を繋いで温め合えばいい。
手を繋ぎたいという俺のエゴでもあった。
今年は
そんな手を握ることなく終わった。
暖かくなってきても、
俺の心は、君のことを繋ぎ止め、
君の体温を忘れることを知らない。